第278話 王城に行こう!

「ふぅ…。こんな気分で王城を目指すなんて久しぶりだ…」


 プレスが呟く。


 昨晩、ギゼルが作る西大陸の料理を堪能したプレスとティアはミケ、サラ、カレンと別れ王都ガイアクレイスの冒険者ギルドが提供している冒険者用の宿泊施設に宿泊した。ギルドマスターであるガンディアの計らいで普段は使用していない個室を二部屋使わせてくれたのは運がよかった。


 そして翌朝となる本日、ゆっくり起きたプレスはティアを伴い王城を目指すことにした。


 空は抜けるように青く見事なまでに晴れ渡っている。空気は冷たく透き通り、降り注ぐ冬の日差しはとても心地が良いのだが、そんな青空に比べてプレスの顔色はあまりよくない。


「主殿…?大丈夫か?王城で何が待っているのだ…?」


 ティアが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫。問題ないよ。懐かしい顔に会いに行って、依頼の内容を確認するだけさ…。信頼のおける極めて優秀な連中なんだけど…、何せ五年ぶりだからね。そのせいで久しぶりの再会を面白がっているって感じかな…」


「そ、そうなのか…?」


「ははは…、ティアにも紹介するからね。楽しみにしてて!」


「わ、わかった…」


 そんな話をしながら歩いていると王城が見えてくる。石造りの美しい城壁と尖塔を持ち巨城と呼ばれるのに相応しい堂々とした佇まいは圧巻の一言である。その美しさは雪景色にもよく映えていた。


「周囲を掘りと高い城門で囲ってあるのか…。なかなかに見事な造りの城であるな。主殿?どこから入るのだ?」


「正門とそこに繋がる跳ね橋は祭事の時や他国の使者の場合以外は使用されない、こっちに貴族を含めた王城に勤める者や陳情に訪れる者達のための門がある」


 そう言ってプレスはティアを連れて東側にある城門へと向かう。こちらもなかなかに大きい。


「えっと…、城内に入る場合は…、ティア、こっちへ…」


 プレスがティアと共に城内へと入ろうとする。人影は疎らである。政務に携わる貴族や働く者以外に王城を訪れる者は決して多くはないのだ。すると一人の衛兵が行く手を遮った。プレスもティアも既にフードは外している。


「申し訳ありません。こちらは王城内となります。来訪を予定されていない方は入ることができない決まりになっておりまして…」


 そんなことを言ってくる。


「えっと、C級冒険者のプレスと言います。本日、依頼内容を確認するために王城に来ました。こっちは相棒のティアです」


「え…、C級冒険者が…?そ、そうですか…、しかしそのような話は聞いてはおりませんが…」


 かなり若い衛兵だ。ちらちらとティアへと視線を向けている。どうやらティアの美しさに当てられたらしく顔が赤い。プレスの顔も知らないようだ。見習いかもしれない。本来、このような場合はどんな来訪者であっても来訪予定者の一覧を確認する手筈になっている。さらにたとえ一覧に名前がなくても訪問の理由を丁寧に確認することが衛兵には求められている。そう言ったが大きな事件を未然に防ぐきっかけになることも少なからずあるので、市井の声を少しでも救い上げるために決められた規則なのだ。さらに見習いであれば先輩が付き添い二人一組で行動することになっている筈なのだが…。


「えっと…、サラに聞いてもらえれば…」


 そう言ってしまいプレスは少し後悔する。


「サラ…?まさかサラ=スターシーカー様ですか?あの方に確認を…?」


「ごめん、混乱させる気はなかったんだ。来訪者リストを確認してくれないかな?プレスって載ってるはずだから。それにこういう場合、相手が誰であっても必ず来訪予定者の一覧と照らし合わせる手順になっているでしょ?」


「いえC級冒険者が王城を訪れる予定などあるはずがありません。早々にお引き取りをお願いしたく…」


 そこまで強硬に出る訳ではないが彼も頑なである。聖印騎士団の紋章を見せれば済む話であるが、それだと威圧と変わらない。そんなことはしたくないプレスであった。


「すまん。一人にしてしまった。こちらの方々は?」


 そう言いながら先輩らしいもう一人の衛兵が現れた。やはり若い衛兵は見習いだったらしい。状況を説明すると、先輩から注意を受けることになる。


「相手が誰であろうと関係ない。来訪者は必ずリストと照合しろと言っているだろう?たとえ一覧に名前がなくても訪問の理由を丁寧に確認することも重要だ。が大きな事件を未然に防ぐきっかけになることもある。訓練でそう教わらなかったか?」


 そう後輩を諭した衛兵がプレス達に向き直る。


「新人がご迷惑をかけました。すぐにリストと確認してきますので…」


 そこで言葉が止まる。その視線の先にはにこやかな表情のプレスがいた。


「大丈夫。気にしていないよ。君のような衛兵がいるってことが分かって安心しているところさ…」


 何かに…、恐らくプレスの正体に気付いたであろう先輩である衛兵の顔が真っ青になり滝のような汗が噴き出すのが傍目からも分かった。


「だから気にしていないって…」


「も、も、も、申し訳ございません!!まさか貴方様とは…。こ、この者はまだ王城に勤めて日が浅いのです。貴方様のことを知らなくても…、いや、指導できなかったのは私の責任!!どうか、どうかこの責めはこの私に…」


 突然、ヒートアップしてしまう先輩衛兵に困ってしまうプレス。その様子を若い衛兵が呆然と見つめている。


「だーかーら!何も気にしていないって!!」


 そう言ってみるが先輩衛兵は頭を下げたまま謝罪の言葉を述べ続けている。どうしようかとプレスが思った時、


「団長!お久しぶりです!お待ちしておりました!」


 そう声がかかった。そこには五年ぶりではあるが見慣れたよく知る者の姿があった。


「フランツ!!いいところに!!助けて!!」


 プレスは心から安堵して腹心であるかつての部下に助けを求めるのであった。

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