第277話 嵐の予感?

 西大陸の前菜と主菜に満足した一同はギゼルが薦めたサヴァランというデザートを食べることにした。バターを多めに仕込んで焼き上げた丸型の生地にたっぷりと酒を含ませたあと上からクレームパティシエールと呼ばれる甘いソースをかけたものだ。甘さも酒精も強い筈なのだが美味しく食べることができるバランスが絶妙である。


「ははははは。サヴァランはもっと甘く!もっと酒を!が信条のデザートだからな。しっかりと味付けしてある」


 そうギゼルは笑って教えてくれた。デザートの後にはコーヒーが出される。


「それにしても今日三人に会えるとは思わなかったよ」


 プレスは素直な感想を述べる。既に王都ガイアクレイスには夜の帳が下りている。しかし王都はプレスの帰還を歓迎する喧騒は未だ衰えを見せていない。


「フランツは相変わらずだと思うけど…、フローラとミスティアは?」


 プレスがサラに問う。


「仰る通りフランツさんは相変わらずですわ。フローラさんはミケさんとの対決に負けて本日の王城の警備をしています。ミスティアさんは今日の宴のために街の治安確保です」


「それはそれは…」


 プレスの顔色が徐々に悪くなる。


「お二人ともそうとう怒ってましたから明日はフォローをお願いしますわ」


「はは、は、は…、ど…、努力します…」


「主殿?」


 ティアが心配そうにプレスの顔を覗き込む。


「ティア…、フランツってのは聖印騎士団の副団長でフローラが三番隊隊長、ミスティアが六番隊隊長だよ」


「ミケ殿たちと同じ実力者の方々なのだな」


「ああ、とってもね…。明日紹介することになると思う。さて明日は頑張らないと!!」


 プレスが何故か気合を入れる。


「それにしても皆はユリアのあの言葉って知っていたのか?」


『皆に告ぐ!プレスはこれからフリーになる!これはチャンスだ!優良物件だから幸せにしてやってくれ!私が許す!というか命令だ!!』はプレスの今は亡き婚約者で聖印騎士団の一番隊隊長を務めていたユリア=イーリスの言葉である。プレスはそのことについて三人に聞くことにした。


「もちろん!」

「もちろんですわ!」

「ん!あたりまえ!」


 当然と言わんばかりで返答する三人。


「くっ…、知らないのはおれだけか…」


「団長!大丈夫!ユリア姉さんの言葉はこの五年でバッチリ国民たちに浸透しているよ!!」

「まさに国民の一大関心事ですわ!」

「ん!日に一回は話題に上ると言われている!」


 そう畳みかけてくる。


「何が大丈夫何なんだか…」


「だって非公式に団長の将来の嫁ランキングなるものもあるからな!ちなみにあたいは最新のやつで五位!」

「ふふふ…。私は六位でしたっけ」

「ん!ボクもランクインしてる」


「はい!?」


 プレスが旅から帰ってきた家が燃えてしまったことを目の当たりにした旅人の顔になる。


「いつの間にかそのようなものが作られていましたの。誰が作っているのかは不明なのですが頻繁に内容が更新されまして、国民の楽しみの一つと認識されてきているものですわ」


 サラが代表して説明してくれるがプレスの心は穏やかではない。


「なんでそんなことに…」


と遠い目になりかけるがほんの少し興味が出て聞いてみることにする。


「サラ…、サラさん…。ちなみに…、ちなみになんですけどランキングの一位って…?」


「フランツさんですわ!」


 プレスが驚愕の表情を浮かべる。


「おい!フランツって…、あいつは国民にはなっているだろうが!?おれは同性の恋愛も結婚も賛成していることを表明していたけど、おれ自身としては女性を恋愛の対象にしていることは国民全員が知っているだろう!?」


「その…、ユリアお姉さまを亡くされた団長が副団長として仕えているフランツさんと共にいる内に…、その…、深い仲になるのでは…、と。国内の一部の女性からは熱烈な支持を集めているらしいですわ」


「なまじあいつが感じだから始末が悪い!!」


 普段見せない狼狽した様子を見せるそんなプレスをミケが面白そうに眺めながら口を開く。


「団長!肝心な人を忘れていないか?」


「え!?」


「国王の妹君!!もうすっかり大人の淑女だよ!!」


「まさか!?」


 もう狼狽が止まらないプレス。


「ランキングに載ってないってこの前、王城に雷が落ちたからね…、現実に!明日、頑張ってね!」


 プレスは店の床にがっくりと膝を落とすのだった。

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