第276話 王都で楽しむ美味しい料理(主菜編)

 葡萄酒ワインと前菜との素晴らしいマリアージュを堪能したプレス達の下にギゼルが新たな皿を運んでくる。


「お待ちどうさま!カスレを予約してもらっていたけどプレスさん達も来てくれたから一品サービスで今日の主菜メインは二品だ!まずこれを試してほしい!」


 そう言われて登場した一品目は大きな黒い鉄鍋で登場した。どうやら煮込み料理らしい。ギゼルが蓋を開けるととてもよい薫りが周囲に漂う。


「こいつはトリップ・ア・ラ・モード・ド・カーン。牛の胃を使った料理だ。ミケ様達は内臓系の料理に全く抵抗がないって聞いていたからな。プレスさん達も大丈夫だろ?」


「ああ。全く問題ない…、けど、難しい料理名だね?トリップ…?」


「トリップ・ア・ラ・モード・ド・カーン。トリップは内臓って意味で、ア・ラ・モード・ド・カーンはカーン風という意味になる。西大陸にあるカーンという街で作られた料理とされているんだ。今となってはよく分からないらしいがな。牛に胃が四つあることは知っているかな?この国は本当に豊かな国でとても良質な牛が手に入る。その牛の四つの胃をよく洗って下茹でしてから香草や野菜と一緒に十時間以上煮込んだものだ。この国で造られているリンゴ酒も加えていてとても良い風味に仕上がったぞ」


「本当に色々入っていますね…」


 サラがそう言いながらもてきぱきと小皿に取り分ける。早速食べ始める一同。


「こっちは布状、こっちはヒダヒダ付きか…、分厚かったり…、うん?こいつは…、トロトロだ!内臓は脂分が多い筈なのにさっぱりしていて全っ然臭くない…、どころかすっごく美味しいぞ!!そしてワインとの相性も抜群だ!!」


「ん!美味!!」


 ミケもカレンも満足そうに料理を頬張りワインを飲む。


「ギゼルさん。これは美味しいよ。下処理した牛の内臓を焼いたり煮込んだりした料理は以前からあったし美味しいと思っていたけれど…、料理としての完成度はこちらの方が上かもしれないね。そしてミケも言ってるようにトロリとしているのに脂分をあまり感じないのが素晴らしい。しつこくないから食べてしまえるな…」


「うむ!主殿!我も竜だからな。内臓もいろいろと食してきたが、この食べ方は至高の域に足していると言える!!ギゼル殿!見事だ!!」


 プレスもティアもその煮込み料理の美味しさに驚く。


「気に入って貰えてうれしいぜ。ちなみに脂分は殆どを濾しとっている。純粋なゼラチン質を味わってほしくてな。内臓系の料理がダメな奴も多いが、味を知ってもらえたら皆のように満足してもらえる筈なんだ。この街は新鮮な内臓が手に入るから焼いたり煮込んだりの料理は結構あるけど西大陸の料理はまだ多くない。だからこれから流行ってほしいぜ」


 ギゼルの言葉に一同は賛同の意を示すのだった。


「さて、二品目はこちらだ!」


 そう言ってギゼルが皿を運んでくる。今度は一人一皿の料理らしい。見れば深皿がスープのようなもので満たされオーブンから出した直後らしくグツグツと煮えたぎっている。そんな皿の中で鳥のモモと思われる大きな肉と豆が煮込まれていた。


「この料理はカスレ。西大陸伝統的な冬の料理だ。肉は羊、鳥、豚とかを使うんだけど今回はいい鴨が手に入ったから鴨のモモ肉でやってみた!豆はインゲン豆を使っている。さ、食べてみてくれ!!」


『熱いから気を付けて!』そう言われながら一同はナイフとフォークを持ち未知の料理に挑む。鴨のモモ肉にナイフを当てると驚くほどに柔らかく解ける。それをこれまた柔らかく煮込まれたインゲン豆と共に口へと運ぶ。


「これは…、言葉になりませんわね…」


…、まい…。あたいは…、あたいはこんな鴨肉食べたことがないぞ…」


「ん!これは堪らない!」


「美味しい…。鴨肉ってこんなに濃厚な煮込みになるものなのだろうか…」


「くぅ…。主殿!これは最高だぞ…」


 そして、


「「「「「赤葡萄酒ワインを追加で!!」」」」」


 一同の揃った声が店内に響いた。


「ふぅ。本当に美味しいな…。ギゼルさん?これは西大陸の料理なの?」


 プレスは手が空いたらしいギゼルに問う。


「ああ。冬の代表料理ってとこかな?ざっくりいうと鴨モモ肉を塩漬けにしてからまわりをこんがり焼いて、玉葱、ニンニクのみじん切りを炒めたところに鴨モモ肉をいれ、豆の煮汁、香草、豚皮をいれ鴨が程良く柔らかくなるまでじっくりと煮込む。豆とトマトを入れて味を調整し、陶器の深皿に入れてオーブンで焼きあげるって料理だな。鴨の皮は表面に出ているのでこんがりと焼きあがり、肉は豆と一緒にゆっくりと暖められてしっとり柔らかく、けれども肉の食感は残すってのがポイントかな」


「とても考えられた料理だね」

「最高だ!」

「あたいに赤葡萄酒ワインをもう一杯!」

「飲み過ぎですよ!ミケさん!」

「ん!ボクも赤葡萄酒ワインを貰おうかな?」


 既にかなりの量を食べている筈の一同であるがその勢いは留まることなく…、こっそりと腰ひもを緩めつつも、盛んに飲み、盛んに食べた。


「さ、食後はデザートだろう?今日のデザートはサヴァランがお薦めだ!どうする?」


 まだまだ楽しい夕食は終わらない。そんな楽しいひとときを満喫する一同であった。

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