第275話 王都で楽しむ美味しい料理(前菜編)

 プレス、ティア、ミケ、サラ、カレンの五人が座るテーブル席に料理が運ばれる。


 先ず目に飛び込んできたのはパテ・アン・クルートとフロマージュ・ド・テット。エルニサエル公国とガーランド帝国の国境にある街ロンドルギアでプレスとティアが思わず唸った美味しい前菜である。


 パテ・アン・クルートはこの大陸でも広く知られている肉のパテをパイ生地で包んで焼き上げた料理だ。パイ生地とパテの隙間に赤葡萄酒ワインのゼリーが入っているのもロンドルギアで食べたのと同じである。


 フロマージュ・ド・テットは直訳すると『頭のチーズ』。豚の頭部の部位を香味野菜と白葡萄酒ワインでコトコト煮込んで冷やし固めた料理である。こちらにはマスタードをたっぷりと使用した茹で卵のソースが添えられていた。


「パテ・アン・クルートとフロマージュ・ド・テットだね!これは葡萄酒ワインが進む…」


「主殿!これはロンドルギアの街で食べた料理だな!?非常に美味であったことを覚えているぞ!」


 プレスとティアが嬉しそうに声を上げる。


「さすが団長!話が分かる!こっちのソシソンセックも葡萄酒ワインとの相性は最高だぞ!!」


 ミケが指すその皿には腸詰を干したようなものが薄切りにされている。


「通常の腸詰とは味が異なります。干して熟成させているため独特の風味がして美味しいですよ」


「ん!葡萄酒ワインが美味しくなる!」


 サラとカレンも太鼓判を押す。ミケがすかさず一枚を口に入れた後、白葡萄酒ワインを仰って幸せそうな笑顔を浮かべた。


 そして大皿に盛られた大盛りのサラダが登場する。


「ここまでが前菜だ!いくらでも追加できるから、酒も料理も追加がほしければ言ってくれ!俺は《メイン》を作ってくる!」


 料理を運んでくれたギゼルはそう言うとまたカウンターの中へと戻っていった。


「このサラダ…。小さい葉物の野菜がこんなに入っている。この冬に…?」


「ん!やっぱり団長は流石!気付いた?」


「カレン?この野菜って…?イモや玉ねぎは保管設備が出来ていたし、君の冷蔵技術でキャベツみたいな結球する野菜を保存することができるのは知ってるけど、この小さい葉物野菜って保管したら萎びてしまうんじゃなかったっけ?」


「ん!この小さい葉野菜達はベビーリーフ。いろいろな野菜の若芽をまとめてこう呼んでいる」


「どうやって保存を?」


「ん!団長の知識は五年前!技術は常に進化する。まだ研究段階だけどボクは温室を造ってみた!」


「温室?」


「ん!一定の空間を冬以外の環境にする施設。これで暖かい時期の野菜も栽培できる」


「そ、そんなことも可能なのか?」


 プレスは驚く。そんなプレスにミケがジト目でカレンを見つめつつ言ってくる。


「団長!カレンに言ってやってくれ!このベビーリーフは研究段階でまだ市場に出ていない。つまり王城から警備の目を掻い潜り秘密裏にこの店に持ち込まれたものってことになる」


「ん!ミケは解釈の幅が狭い。これも研究の一環。これは試験的に作成した野菜だから味の確認も重要!」


「それは王城でもできるだろうが!」


「ん!より美味しさの可能性を探るならこの店の方が適任!」


「その場合、料理人を公募するのが正規の手続きだろうがよ?」


「ん!固いことは言わない。料理の美味さの方が大事。そしてこの店が美味しい!」


「そりゃそうだけどさ…」


 どうやらカレンが王城で試験的に作成された研究成果ベビーリーフを無断で持ち出し、この店に持ち込んだようだ。王城から出るときには持ち物の検査が行われる。かなり厳しい検査なので誤魔化すことは難しい筈なのだが…、相手がカレンでは誤魔化すのも簡単かもしれない。


「おれはC級冒険者のプレストンだからな…。なにも見てないし聞いてないよ」


「ん!それでこそ団長!話が分かる!」


「それはさておきこのサラダ。ベビーリーフの上にかかっているこれは…?レバーとイモとベーコンの細切れ…?」


「そうです団長!これは西大陸風サラダの一つだそうです。肉類やイモをソテーしたものが乗っていて結構ボリュームがありますし、これも葡萄酒ワインと合いますよ!」


 サラがそう補足しながら小皿に取り分けてくれた。食べてみるとレバー、イモ、ベーコンにはしっかりと味が付いている。その濃厚な味とベビーリーフの野菜特有の風味はとても相性が良いようだ。そこに赤葡萄酒ワインを一口…。口の中に広がる旨味にプレスは感動する。


「凄いな…。サラダなのに葡萄酒ワインが進む…」


 どの前菜も葡萄酒ワインとの相性がとても素晴らしい。これから主菜メインが出てくるというのに五人は旺盛な食欲を見せ葡萄酒ワインを楽しむのであった。

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