第273話 賑やかな予感
聞き覚えのある声に笑みを浮かべたプレスはティアを伴い店内へと入った。
魔導ランタンの柔らかい光に出迎えられる。魔導ランタンはレーヴェ神国でよく使用されている照明器具だ。明かりとしてだけでなく睡眠等の魔法を込めれば安眠用といった様々な効果を持たせることができる便利な道具であった。
木造による素朴な造りではあるが温かみを感じるなんとも居心地のよさそうな雰囲気である。
照らされる店内で最初に目を引くのは十人程が座る頃ができるカウンター。その奥に調理場が見える。簡単な仕切りがあるが調理台の高さとカウンターの高さはさほど変わらない。料理を作っている様子を客が見るように設計されているらしい。
そんなカウンターでは二組の客が食事を楽しんでいた。
それとは別に四人掛けのテーブルが四つ。店内の雰囲気によく合わせたデザインで、こちらも寛いで料理を楽しめそうな席である。
そして奥には暖炉が一つ。暖房の魔道具も存在しているのだが、レーヴェ神国でも暖炉の使用率は低くない。便利な魔道具よりも暖炉特有の雰囲気が好きだという愛好家は少なくないのであった。
そんな店内でテーブル席に座っていた三人がプレス達へと視線を向ける。
「団長!お帰りなさい!ここに来ると思ってたよ!」
「そろそろお出でになる頃かと思っていましたわ!」
「ん!」
「ミケ、サラ、カレン…。ただいま…、かな…。こんなところで会えるとは思っていなかったよ。王城で会うとばかり…」
そう言うプレスの傍らで、
「ミケ殿!サラ殿!ご無沙汰している」
ティアも三人へと挨拶をした。
「えっと、こちらは…」
「ここはあたい達の行きつけだからね」
もう一人の女性を気にしたティアの言葉を遮るかのように答えるのはミケと呼ばれた紅い髪と可愛らしい外見が目を引く
今日はビキニアーマーではなくパンツスタイルに薄手のシャツという彼女らしい動きやすさを重視した服装だ。現在の季節は冬だが相も変わらず室内での彼女は冬でも夏のような恰好を好んで着ているようだった。
「本日到着されることは国王様も我々も承知していました。お祭り騒ぎになることは明らかでしたので我々も美味しいものを食べて楽しもうということになったのです」
サラと呼ばれた銀髪の美しい女性がとびっきり笑顔でそう説明してくれる。レーヴェ神国聖印騎士団で五番隊隊長を務めているサラ=スターシーカー。五番隊は魔導士で構成される隊でありその隊長を務める彼女は『星を観る者』という二つ名を持ち、数多の魔法を修めて自在に操る天才的な魔導士として知られていた。彼女もまたレーヴェ神国において最強と呼ばれる騎士の一人である。その美貌と淑やかさ、そして聡明さから彼女も国民から…、特に独身男性からの人気が高かった。
「ん!団長!ボクは団長に謝罪を要求する!」
そう言ってくるのはカレンと呼ばれた小柄な女性。下ろした前髪で片方の目が隠れているが端正な顔立ちであることが伺える。ぷくっと頬を膨らませてプレスへと謝罪を要求するその姿はとても可愛らしかった。
「カ、カレン?謝罪?な、何のかな?」
戸惑うプレスに益々その頬を膨らませるカレンと呼ばれた女性。とても可愛い。
「あ、主殿…、会話の最中で申し訳ないのだが…、あの…、こちらの方は…?」
同じく戸惑いの表情を浮かべているティアの言葉でプレスはとりあえず可憐にティアのことを紹介することを回避行動として選ぶ。
「テ、ティア!こ、こちらはカレン。カレン=ハイウィンド。聖印騎士団で四番隊隊長を務めているこの国が誇る天才魔導技師だよ。そしてカレン!こちらはティア。おれの旅の相棒だ。二人とも仲良くやってくれると嬉しいな…」
「ん!ティアさんのことはボクもミケとサラとマルコさんから聞いている。ヨロシク!今度ゆっくりグレイトドラゴンについて教えてほしい!」
ふくれっ面を一転させ笑顔でそう言ってくるカレン。
「わ、我でよければ…、その…、こちらこそよろしくお願いする。カレン殿!」
そんなカレンに気圧されるかのように挨拶を交わすティナであった。
そんなティアは戦闘職ではないであろうカレンの体内に凄まじい魔力が内包されていることを感じ取っている。ミケやサラ程ではないが彼女も相当な実力者であることをティアは理解するのだった。
「ん!でも謝罪が先!」
そう言ってプレスに向き直ったカレンは再度ふくれっ面になる。
「えーっと…、会うのは久しぶりの筈だけど…、それは何の謝罪かを教えて頂けると…」
依然として戸惑うプレス。すると…、
「ミケ様よぉー。
店の奥にあるであろう
「いらっしゃい!って…、あんたは…」
「ギゼルさん!久しぶり!お店を出せたんだね?」
頬を膨らませたままのカレンを傍らに今夜は賑やかな食事になりそうだと思うプレスであった。
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