第263話 笑顔での決着

 黒い魔物の全身が金色の粒子となって消失する。しかしその様子に特に注意を払うこともなくプレスは金色の長剣を振るい続けた。


「ふぅ…。これで全員!!」


 狂戦士化された全ての人々の魔道具を斬り消滅させる。そんな彼らに再構築リコンストラクションの魔法が作用し魔力回路が修復されてゆく。プレスはティアへ念話で問いかけた。


『ティア!全員の魔道具は滅ぼしたよ!どう?上手くいってる?』


『主殿!魔力制御には成功している。全員の魔力回路を修復できるはずだ。ただ…』


 念話を通してティアの申し訳なさそうな感情が伝わってくる。


『どうした?』


『主殿…、全員は助けられない…。寿命なのか病によるものか既に死亡していた者がいる。彼らは死亡した状態で魔力回路を強制的に動かされていた状態だったらしい。魔力回路を修復できても…』


『命までは戻らないか…。そうか…。ティア、残念だが今は助けられる者達に集中しよう。魔力回路の定着はできそう?』


『ダンジョンコアが魔力を供給してくれているからな。問題なく出来るはずだ』


 その言葉にプレスは安心して頷くと木箱へと移動した。懐から紙を取り出すと魔法陣を描いて唱える。


天地創造オーバーライド封呪ロック!」


 長剣が木箱に収納される。それと同時に大広場を覆うかのように展開されていた魔法陣が赤紫色の閃光を放ち視界の全てが魔力の閃光で埋め尽くされた。再構築リコンストラクションの魔法が完全に行使されたのだ。そして閃光が消滅する。大広場には五百人弱の意識を失った人々が斃れていた。


「後は冒険者ギルドが上手くやってくれるだろう…」


 そう呟くプレスは既に大広場を離れていた。そうして移動したプレスは街の一角でマルコと落ち合い状況を確認する。ダリアスヒルのダンジョンから溢れた魔物は一定数いたらしいがマルコと星雲騎士団が対処し、短時間でダンジョンの暴走が止まったこともあり被害はゼロであったという。


「それはよかった」


「プレスちゃんの方はどうだった?上手くいったかしら?」


「ああ…。なんとかね…」


「うん?プレスちゃんらしくないわね?何かあったの?」


 プレスの浮かない表情にマルコが問いかける。


「全員は助けられなかった。既に死んだ状態で操られていた人がいた…。残念だよ。もう少し早くこの失踪事件を解決できていたら助けられたかもしれないと思うとね…」


「そうだったの…。でもそれは難しかったと思うわ。あたしもスワンちゃんもあの黒い魔物の存在に気付くことができなかった。がよ?あいつらの力はそれほどでもないけど使われている隠蔽技術は厄介すぎるわ」


「分かってはいるけどね…」


「そうやって責任を感じるところは変わっていないわね…。でも今は多くの人を助けることができたことを喜びましょう。プレスちゃんがいたからできたことよ?プレスちゃんがいなかったら狂戦士化された人々は全員死んでいたわ」


 プレスは痛いような笑みを浮かべる。


「しかし収穫もありましたよ」


 そう声がかかる。振り返ったプレスの視線の先にはスワン司教がいた。


「司教様!魔物の群れは?」


「問題ありません。冒険者達と殲滅しました。彼らは魔物の素材等を集めていますので私は先に戻ってきました。ただ戦闘の際、ちょっと珍しい者と戦いましてね…。孤児院に戻ったら詳しく話します。プレストンには必要な情報だと思いますよ?」


「それは楽しみです…」


 プレスが表情を明るくする。落ち込んでもいられない。今回のことは冒険者と街を護っていた星雲騎士団の活躍ということしようと思っているがギルドマスターに数回は会う必要が出るだろう。レーヴェ神国本国への報告はマルコにお任せ一択のプレスであるが…。


「主殿!!」


 その言葉と共に転移してきたティアがプレスに飛びつく。


「ダンジョンからも主殿の姿を見ていたが流石主殿であった。あれほどの剣技を我は知らない。素晴らしかったぞ!!」


 プレスの腕の中で自身の知っている言葉の全てを使ってプレスを称賛するティア。彼女を見てプレスははっきりと笑顔を浮かべた。


 それはマルコもスワン司教もかつて見た…、そしてあの日以降…、婚約者であったユリアが死んで以降見ることができなかった笑顔。マルコとスワン司教は互いの目を見て軽く頷く。二人はかつての教え子が自然な笑みを浮かべることができるようになったことを心から嬉しく思うのだった。

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