第259話 竜の拳(高位の竜はダンジョンへ潜る5)
『………ここは?いったいどこなのだ…?』
ティアの視界には何もなかった。唯々、完全な闇が広がるばかりの空間がそこにあるようだ。
『…ん?声も出せぬし、この感覚は?体が動かし難いな…。拘束されているわけではないと思うが…?それに魔力もうまく扱えないようだ…』
言葉を発しようとして音が出ていないことに気付く。さらに全身は不思議な感覚がする物体で覆われて宙に浮いているかのような状態でとなっている。手に触れるその感触は厚い膜状…、いやもっと液体に近いだろうか、感触はあるのだが掴もうとすると逃れられてしまい上手くいかない…。そんな不思議な物質がティアの全身を包み込んでおり、体と魔力の動き双方を阻害していた。ティアは注意深く自身の置かれている状況を確認する。
ごく僅かだが周囲に魔力の流れを感じる。この空間を構築するかのような周囲を流れる魔力の流れ。巧妙に隠蔽されてはいるがどうやら空間を構築する魔法らしい。そして、
『この感覚は…。恐らくだが…、この闇の中に囚われた存在はその活動の一切を封じられてしまうのだろう…。我の
白狼の街ホワイトランドでかつて領主に納まっていたジルハイド=ストアは魔道具慟哭の銀鎖の力で異形の姿へと変貌しその能力でプレスをダンジョンのような異空間に閉じ込めようとした。
自身がいるこの空間はそのさらにタチが悪いものだとティアは判断する。普通の人族や亜人であればここで何もできずに永遠の時を過ごすことになったのだろうが、ティアはこの世界で最強の種族と言わる竜種の中でも最も高位なものの一つであるグレイトドラゴンを遥かに超越した何かといった存在である。意識もあったし体もある程度は動かせる。そしてそれ以上の力の行使も…。
ちなみにプレスは自身の元から持っている力と
『あの時の主殿はお怒りだったからな…。掛け値なしの全力で天をも割ったが、恐らくここは依然としてダンジョンの中…。あそこまで派手に暴れるわけにはいかん…』
心の中でそう呟くとティアは右の拳を握り締めた。徐々に右の拳が金色の魔力によって煌めき始める。プレスの持つ
その強大な力を伴う金色の魔力は闇属性の魔法などで制御できるようなものではない。ティアの拳が閃光を纏う。
「さて、ダンジョンの中へと戻るとしよう…。主殿からダンジョンコアを元に戻すよう言われていることだしな!!」
闇の空間に構うことなく声を上げたティアが構えを取って右の拳を空間へと突き出した。
異形の姿となった魔剣士ジャーメインは薄れゆく意識の中で悦に浸っていた。もう殆ど自我は保てない。だが自分達の計画を邪魔してきた存在は自身の能力で未来永劫あの闇で出来た空間に囚われることだろう。
「ゲッゲッゲッゲッゲ!!!」
下卑た笑いが漏れ出てくるがそれが自分のものか異形の魔物の本能によるものかそれすらも朧気であったが心は十分に満たされていて。
『我が君のご命令…、遂行しま…、し…』
心穏やかに意識を手放そうとした時、
「!?」
自身の体に凄まじい衝撃が走ったことを自覚する。見れば己の胸が光り輝く拳と共に一本の腕によって内部から貫かれていた。光は拳を中心に渦を巻きその勢いをさらに強める。金色の渦が異形となった魔剣士ジャーメインを巻き込みその全身を金色の粒子へと変換してゆく。
「ガ、ガ、ガガガガガガガガガガガガガガ!!!!」
声にもならない断末魔とともに五体が砕ける。金色の魔力の渦は勢いを弱めることなく魔物の全身全てを粉々に分解し金色の粒子として周囲一面にまき散らす。
「ふぅ。上手くいったようだ…」
そう呟いたのはそこに佇むティアであった。異形の魔物はその塵すらも残っていない。ティアは魔物のことなどなかったかのような素振りでダンジョンコアの方へと視線を送る。
「さて…、目的を果たすとしよう!」
ティアの凛とした呟きがダンジョン内に漏れ聞こえた。
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