第258話 闇を纏った魔物(高位の竜はダンジョンへ潜る4)

 右腕の切り落とされた箇所を抑えつつ立ち上がったジャーメイン。その口はニヤリと笑いを浮かべている。その様子を見たティアが足を止める。


「フフ…。女よ、貴様は強い…、それは認めよう。このところ我等の計画を悉く潰してくれたのは貴様だな?」


「?」


「とぼけなくてもよい。我等の計画に介入する何者かの存在があることは知っていた。それが貴様ということだ」


 ティアの主は当然プレスであり黒い魔物達の計画を潰したのはティアの認識ではプレスである。しかしティアもしっかり関与しているのでこの黒い魔物の言っていることも間違っているとは言えない。こちらの情報を明かすことなどありえないが当たらずとも遠からずといった指摘をされて少し困惑してしまうティア。


「…?」


 無表情ではなく戸惑ったような表情が浮かんでしまった。


「認めないか…。だが貴様をここで殺せば我等にとっての障害は消えるということだ」


 不気味な笑みを浮かべた魔剣士ジャーメインは柄だけとなっている魔剣を右手に構える。


「お前にそれができるとは思えないのだが…」


「フフフ…。我らを甘く見た貴様の負けだ!」


 ゴボッ…。


 水中から気泡が沸き起こったかのような音と共に魔剣の柄から漆黒のが溢れた。ティアは顔を顰める。魔力かと思ったがそれとは似ても似つかない。ティアの目にはそれが闇そのもののように見えた。


「フフ…、フヒ…、フヒヒヒ…。コ、コ、コノチカラダ…。ヨリタマワッタチカラ…」


 ジャーメインの言葉がおかしくなり全身にヒビが入り始める。


 ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ、ゴボボボボ…。


 魔剣の柄からはなく漆黒の物質か湧きおこる。


『こやつと言ったか…?恐らくこの者達を束ねる者が存在するのだろうな…。それにしてもこれは…?吹き飛ばすか…?』


 ティアの金色のブレスで全てを消滅させることは可能だがダンジョンコアがすぐ近くにあるこの場で神滅の咆哮ラグナロク・レイの使用は躊躇ためらわれた。


「コロス!コロス!コロス!!!ゴロジデヤルゥウウウウウウウウウウウウ!!!!」


 絶叫と共に魔剣士ジャーメインの全身が破裂した。と同時に巨大な魔力が溢れ出す。


「ほう…」


 ティアは思わず感心した。それなりの大きな力を感じたのである。その視線の先には燃え上がるかのように揺らめく闇がある。全身に炎のように揺らめく闇を纏った背丈が十メトル程の巨人がその姿を現した。脚が短く腕が長くて大きい、そして不格好なほど巨大な胴体と頭部がそこにあった。その姿はゴーレムと呼ばれる魔物に近いが、岩で造られたゴーレムとは違い、全身が漆黒の闇で造られていた。


 手にあった魔剣の柄は右手に吸収されたらしく巨大な右手からゴボゴボと音を立てて闇が溢れ続けている。


火球ファイアボール!!」


 ティアが唱える。出現した黄金に光り輝く巨大な火球が一直線に闇の巨人に向かって飛んだ。


「ガアッ!!」


 闇の巨人が右手を振ると溢れた闇にティアの火球ファイアボールが飲み込まれた。すると火球ファイアボールが掻き消されたかのように消滅する。ティアの火球ファイアボールはその辺りの冒険者が使うような威力ではない。かなり本気で放った火球ファイアボールを一瞬でかき消した様を目の当たりにしてティアは些か驚いた。もちろんそれを表情に出したりはしない。


「闇属性の魔法に闇を扱って物質に干渉するものがあると聞いたことがあるが…。それを巨大な魔力で全身に展開…、特に右手に威力を集中させているのか…?」


「ゴッ!!」


 再び闇の巨人が右手を振るうと床に溢れていた闇の全てが巻き上がる。


「それは…」


『流石にマズいか…?』


 そう思った瞬間にティアの全身は闇に飲まれていた。

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