第256話 ダリアスヒルに仇なすもの(高位の竜はダンジョンへ潜る2)

 ここはダリアスヒルの街にあるダンジョンの深部。そこにあるダンジョンコアが漆黒の液状物質によって徐々に浸食されてゆく。それに伴い膨大な魔力が発生しその過剰な魔力の影響で赤紫色の霧が発生する。この霧を浴びたダンジョン内の魔物は狂暴化するし、過剰な魔力により新たに上位の魔物が凶暴化した状態で大量に発生する。そしてそんな魔物達はそれ程の時を置かずにダンジョンから溢れ出てダリアスヒルの街で暴れることになる。


 浸食されるダンジョンコアを前に黒い魔物の一人である魔剣士ジャーメインは己の計画が成功することを確信していた。腰に剣を差してはいるが人型の体は全てが漆黒。目も鼻も耳も無い顔に唯一ついている口がニヤリと形を変える。


「そろそろ街の外で魔物の群れと冒険者や騎士達の戦闘が始まる頃か…。フフ…、街の外を気にしている間にダンジョンから溢れ出した凶暴な魔物達とギャロが創り出した狂戦士が街を蹂躙する。あの冒険者が殺されるならそれでよし…、生き残ったのであれば俺が殺せばいいだけだ…」


 魔剣士ジャーメインの目的は自分達の計画を邪魔している冒険者をこの街ごと滅ぼしてしまうというものだった。各地に放たれている配下の者からの情報でエルニサエル公国への魔物を使った侵攻、港湾国家カシーラスでのリヴァイアサンやダンジョンを使った国家を混乱させる計画といったものが失敗した陰にはどうやら冒険者が絡んでいるということは掴んだ。


 そして白狼の街ホワイトランドで領主が乱心の上、死亡した事件。領主であったジルハイド=ストアはジャーメインから見ても反吐が出るような人物ではあったが小国家群に拠点を作るという意味では使える人物であった。そんなジルハイドが死亡し統治権はかつて善政を敷いていたロヨラ家に戻ってしまい彼らの計画は失敗に終わった。そんな一連の騒動にも同じ冒険者が関わっていたという。


 その冒険者の名前はプレストン。しかしそれ以上の情報が掴めなかった。


 港湾国家カシーラスではミケが冒険者ギルドで盛大に暴露したし、白狼の街ホワイトランドでは多数の冒険者の前で堂々と名乗っていたにも関わらず…。冒険者はレーヴェ神国とは絶対に敵対しない。それはレーヴェ神国の情報…、特に聖印騎士団の情報については決して口外しないということである。あのときそれぞれの場にいた全ての冒険者は彼らより立場の上の者から、脅しともとれる(というか完全に脅している)口調で『命が惜しければ全てを忘れろ!!』と言われ真っ青な顔でプレス達のことを記憶から消去することに努めていたからだ。


 ただそのプレストンという冒険者が星の街ダリアスヒルに向かったらしいとの情報を得たジャーメインは当初の計画に割り込む形で今回の策…、ダリアスヒルでの大々的な侵攻と殲滅を実行することに決めたのである。


 当初の計画とは…。そもそもレーヴェ神国は黒い魔物達にとっていつかは滅ぼさなければならない敵対すべき国であった。しかし聖印騎士団は手強い。そのため飛び地であるダリアスヒルに拠点を造り、ここを足掛かりにレーヴェ神国へ深く静かに侵攻するという計画が進められていた。


 このような大々的な行動は全くの想定外でありこれまで準備を進めていたギャロ達は反感を持ったが主であるの命令ということで配下に加えた形である。


 ちなみにジャーメインは白狼の街ホワイトランドで空が真っ二つに割れたという話は全く信じていなかった。


 そんなダンジョンコアを前に笑みを浮かべているジャーメイン。すると突然ダンジョン内の空気が震えた。周囲を見渡すジャーメイン。次の瞬間、ダンジョン全体が激しく揺れ始めた。普通の人族では立っていることも難しいほどの揺れである。それと同時に頭上からわずかだが衝撃音のようなものが聞こえてきた。そしてそれは徐々に大きくなる。大きく…、さらに大きくなる衝撃音。そして、


「ここか!!」


 ダンジョン全体を揺るがさんばかりの衝撃と轟音と共に天井に穴が開く。そこから一人の女性が姿を現した。魔導士風のローブを纏った女性である。輝く金髪、そしてその凄絶な美しさを湛えている顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。


「やっと見つけたぞ、この街に仇なす愚か者よ!貴様の運命は決まっている…。お前に滅びを与えてやろう!」


 ティアはそう言って黒い魔剣士に相対するのであった。

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