第255話 銀槍の騎士(司教様は銀の槍を携える8)
「ひひ…、ひひひ…、今攻撃していたら君にも勝機があったのにねぇ。すごいぃ、すごーい力だぁーさあ!殺してあげるよ!!どうしてほしい?先ずはお返しに引き千切ろうか?腕?足?どっちがいいかなぁー?」
「そこまで自我を保てるとは正直以外だな…」
異形の化け物を相手にすることなくスワン司教の銀の槍が振るわれると化け物の左腕が吹き飛ばされる。
「ぎゃあああああ…」
化け物から絶叫が起こる。『斃せる』そう冒険者達は思った。しかし、
「…なんてね。ひひ…、効かない、効かない…。ほらね…?」
膨大な魔力が集まったかと思うと化け物の腕があっという間に再生される。そのありえない光景と膨大な魔力に当てられたのか遠巻きに見ていた冒険者の数人が気絶した。
「どう?この力。今の僕なら君たちの英雄である聖印騎士団さえ僕の足元にも及ばないんじゃないかなぁ!!」
「ふふ…」
スワン司教がそう返す。
「何を笑っている!?」
目と口だけになった化け物がその口を歪めて怒声を発する。
「笑わせないでほしいものだ…」
スワン司教のその言葉と共に化け物の四肢が全て一度に吹き飛ばされた。
「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
先程の芝居がかかった絶叫ではない心からの絶叫が辺り一帯に響き渡る。
「イタイ!イタイ!イタイ!何だ!?なんだコレハ…?腕が…?腕が…、再生シナイ…?」
全く予想していなかった痛みと状況に地面をのた打ち回る異形の化け物。
「何をしたのか教えてやる義理はない…。だが面白いことを言うものだ…。聖印騎士団が足元にも及ばない?ちょっと笑える冗談だ。誰が足元にも及ばない?…聖印騎士団は最強…。貴様のような存在が何千、何万集まっても相手などは決してならない…」
「ナ、ナンダ!?ナニヲシタ!?コレハ…?イッタイキサマハナンダ!?ナニモノナノダ!?」
人族としての自我が薄れてきたのだろうか片言になる異形の存在との距離をスワン司教がゆっくりと詰める。
「そろそろ終わりにしよう…。闘った相手に敬意を表する形で名乗っておこうか…。たとえ存在が滅んでも名前くらいは覚えておいてくれ…」
「ヒ、ヒィイイイイイイイイイ!!」
絶叫する化け物に構うことなくスワン司教は銀の槍を構えた。途端にスワン司教の周囲から銀の光が立ち昇り始める。その光はスワン司教が手にしている槍へと集まり次第にその勢いを増してゆく。
「いつか思い出すがいい。我が名はスワン=ロンバルディ。かつての名をスワン=ルシフェルト。レーヴェ神国聖印騎士団で先々代の騎士団長を務めていたものだ!!」
突き出された銀の槍から凄まじい銀の閃光が放たれる。大気を揺るがすような爆音と共にその衝撃波が異形の化け物を包み込む…。そして閃光が治まったその後には周囲の魔物達も含めて何も残っていなかった。
「聖印騎士団長ルシフェルト…。
冒険者の一人がそう呟く。
「あ、そのことについてですが…。皆さん!秘密でお願いしますね?」
既にその背に漆黒の翼はない。にこやかな笑みを浮かべたいつもの穏やかな表情と口調でそう言ってくるスワン司教を見た冒険者達は戦いが無事終わったことへの安堵感はどこへやら…、引きつった笑みを浮かべるのであった。
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