第252話 クレティアス教の司祭と繋がる存在(司教様は銀の槍を携える5)
冒険者達はその我が目を疑った。スワン司教が周囲の魔物や黒いローブの男だけでなく人質をも巻き込んでの殲滅攻撃を行ったのである。
「司教さん!?」
「な、何をしてやがるんだ!?」
「モンタスまで
「相手はフレデリカ聖教国の暗部だぜ…」
「多少の犠牲はしょうがないってか…」
背後からの冒険者達の声に反応することなくスワン司教は頭部を吹き飛ばされたクレティアス教の司祭と人質にされたモンタスに向かって銀の槍を構え直し、
「そのままであればさらに攻撃を加えますが…、どうします?」
そんなことを言う。その言葉に驚いた冒険者達は互いの顔を見合わせる。そのとき、
「フフフフ…、ダカライッタジャナイカ…、コンナソッキョウシバイハヤクニタタナイッテ…」
「まー、いいじゃない。何事も挑戦だよぉー。それにしてもあいつ強いね…。ちょっと頑張らないとダメかな…。ひひひ…」
頭部を失った二人から声が聞こえてくる。冒険者達は驚愕し声も出ない。スワン司教だけは銀の槍を構えたまま、
「とても素晴らしい隠蔽ですが、その程度では私の目は誤魔化せません。正体を見せたらどうですか?」
そう声をかけるとモンタスと呼ばれた男の体が服ごと真っ黒に変色しドロドロと液状になる。黒い液状の物体は球形となった後、改めて形を変え漆黒の人型をとった。
黒いローブの男だったものは全身が真っ白に変色し黒いローブ以外が砂のように崩れ去る。ローブだけになった後、そのローブから手足と頭が出現した。顔は先程とは別人である。
「こんなに簡単にバレるなんてねー。人質を解放するフリをして襲ってあげようと思ったのになぁー。つまんないよねー。それで…、僕たちが本来の姿を明かしたってことはここにいる全員に死んでもらうけどみんな準備は出来ているかなー。ひひひ…」
「ヨロコベ…。ゼンインクルシマズニコロシテヤロウ…」
男と黒い魔物の言葉に反応し武器を構える冒険者達。そんな冒険者達を気にする素振りも見せず黒いローブの男はスワン司教だけに視線を送る。
「まー、そうは言っても槍の君はちょっと手強そうだ。だからちょっとした用意があるんだよねー。あ、さっきのあれは余興だと思ってくれていいよぉー。ひひひ…」
パチリッ、と黒いローブの男が指を鳴らすと背後の風景にひびが入った。そして男の背景が音もなく崩れ落ちると三十メトル程先に拘束されている三人の人族が現れた。さらにそんな彼らの頭上には巨大な
「君たちがモンタスって呼んでいた人とその家族だよぉー。本人と奥さんと子供だねぇー。あ、今回は本物だよ?あの
気色の悪い笑みを浮かべながらスワン司教にそう話しかけるローブの男。
「要求はなんでしょう?」
「簡単なことだよぉー。君たちに街に戻ってほしいだけなんだよねぇー。魔物達を進軍させたらその後のことに僕は関与しないから街で迎撃してくれない?そうしたらこの三人は解放するよ?どう?できないことじゃないでしょ?」
「…………断ったらどうします?」
「それはあの
不気味な笑みを浮かべつつそう答える黒いローブの男。それを聞いたスワン司教が銀の槍を地面に差して俯く。
「し、司教さん!?」
「ど、どうした!?」
「まさかビビって…?」
冒険者達がざわつく。スワン司教の姿を見た黒いローブの男は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ひひひ…。素直で助か…」
「フ…、フフ…、フフフフフフ…、面白い…。フフフ…、実に面白い…」
黒いローブの男の言葉を遮るようにスワン司教の静かな笑い声が聞こえてくる。
「何が面白いのかなぁ?」
スワン司教の笑い声に不快感を覚えたらしい黒いローブの男を前にスワン司教は絶対に普段は見せないであろう黒い笑みを浮かべる。
「私を相手にして人質をとるという愚かな行為をしたあなた達が滑稽で面白いのですよ…」
「なんだと…」
「それともう一つ。クレティアス教の司祭と黒い魔物…。あなた達が繋がっている…。つまりフレデリカ聖教国と黒い魔物達は繋がっているということを明確に証明してくれたこともありますね…。その黒い魔物達の用いる隠蔽技術は極めて高度です。こちらからではどうしようもなかったのですがこんなにはっきりと協力関係を明かしてくれるとは…。フフフフ…。レーヴェ神国にいい報告が出来そうです」
スワン司教の言葉に黒いローブの男ははっきりと表情を歪めた。となりの黒い魔物も驚いているようだ。
「貴様…。何を知っている?」
口調までも変わり先程までの余裕はなくなっている。
「さて…、何のことでしょうか…。まあ、それは置いておくとして人質の話でしたね…。私の答えはとうの昔から決まっていますよ…」
そう言って銀の槍を地面から引き抜くスワン司教。その答えとは…、
「クレティアス教のような邪教の信徒にもそこの黒い魔物にも従う謂れなどありません。あなた達はここで滅びるのです!!」
輝く銀の槍を構えるスワン司教が凛とした声を放つのだった。
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