第246話 ダンジョンに異常発生!

 時は少し遡り、スワン司教が先陣を切って銀の槍を魔物の群れに投擲した頃…、そしてティアがダンジョンに潜って数時間が経過した頃…。


 プレスは街の郊外で発生した爆発の振動を感知してスワン司教達が戦闘に入ったことを把握していた。


「本当にこちらに人員を割く必要があったのでしょうか…?」


 不安げな表情を浮かべた冒険者ギルドマスターのフェルナンドがそう言いながらこちらに視線を向けてくる。ここはダリアスヒルのダンジョンがある丘へと続く広場の一角。こうした広場は街の各所に造られている。


 対策会議の場でプレスはダリアスの研究内容のことは避けつつもダンジョンに異常が発生することに言及し、マルコと共に外から攻めてくる魔物を冒険者とスワン司教に任せ、この街の星雲騎士団とさらに冒険者の一部をこの広場に集めダンジョンに不測の事態が起こった時に備えることを提案したのである。まぁ…、プレスはレーヴェ神国聖印騎士団のプレートをチラつかせていたので、冒険者ギルドのギルドマスターや冒険者からしたら提案というよりかは命令…、いや恫喝に近かったかもしれないが…。


「問題ないわ!何があってもあなたの責任が問われることはない。全ての責任はレーヴェ神国にあることはこのあたしが保証するわ!」


「で、でしたらいいのですが…。外の魔物の群れに最大戦力で対応しないというのは…。街の外で戦っている冒険者達にもしものことがあれば…」


 マルコから責任はないと言われてもフェルナンドはまだ納得がいっていないようだ。無理もない、この街…、ダリアスヒルが出来てから今日この日までダンジョンでスタンピードが起きたという記録は無いのだから。


「司教様がいるからね…。マルコ。確かに魔物の群れが相手だけど、会議室で地図を見た限り戦線はそれほど広くなかった。この状況で司教様が一緒に行動していて冒険者が死ぬってあるかな?」


「絶対にありえないわ!」


「だよね…。もしそんなことがあるとすればグレイトドラゴンのドラゴンゾンビが大軍で押し寄せた時くらいかな?」


「プレスちゃん!ティアちゃんの同胞のことは聞いたけどグレイトドラゴンをドラゴンゾンビにするなんてそう簡単にできることではないわ。だけどもしそうであってもスワンちゃんが負けたり、犠牲者を出すなんてありえない!もしあったとしたらその冒険者が無謀な行動をとったのよ!」


「おれもそう思う…。そう言うことだから安心して下さい」


 プレスとマルコの会話を聞いていたギルドマスターのフェルナンドはその内容がよく理解できなかった。そんなギルドマスターの様子を気にも留めないプレスはその視線を丘の頂上へと向ける。


『おれの予感が悪い方向で当たるのであれば、きっと黒い魔物達はダンジョンのコアの位置を特定する魔道具を持っている…。そしてこのダンジョンは迷宮そのものが変化する難易度の高い迷宮型…。ティアがどんなに急いでも恐らく相手の方が一歩先にコアに到達する…。だからダンジョンの異常は必ず発生する』


 そう心の中で呟いていた時、丘の頂上付近で大きな魔力の揺らぎを感知した。その場にいる全員に警告しようとしたが間に合わない。次の瞬間、プレスは自身を通り抜ける凄まじい魔力の波動を感じていた。


「がっ…」

「うっ…」

「ごわっ…」


 周囲の冒険者の数人が崩れ落ちるように倒れる。星雲騎士団の中に倒れるものはいなかったが数人の顔色が悪い。他の広場も同じ状況だろう。一瞬の内にダンジョンを中心にして街中が強力な魔力の波動に曝されたのだ。魔法防御力の低いこの街に住む者の大半が意識を失った筈だ。


「な、何?何が起こったのだ!?」


 周囲の状況に狼狽えるギルドマスターのフェルナンド。元上級の冒険者だったらしく意識を失うことはなかったらしい。


「やはり相手側が一歩先だったね」


 そう言いながらプレスは腰の長剣を引き抜く。


「プレスちゃんの悪い予感はあたるから…」


 マルコも両の拳に黒いグローブを装着する。


 二人の視線の先、ダンジョンの入り口がある丘の頂上からは魔力による赤紫色の霧が火山の噴火の如く噴き出し始める。それだけではない。どこからともなく発生してきた赤紫色の霧が街中にまで漂い始めた。


「フェルナンドさん!冒険者達に伝令を!ダンジョンに異常発生!魔物が溢れる恐れがあるってね!意識を失って怪我をした者の手当ては他のギルドや教会にお願いしよう!」


 プレスの言葉にギルドマスターはこくこくと頷くと周囲の冒険者達に指示を飛ばすのであった。

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