第245話 圧巻の光景(司教様は銀の槍を携える2)

 千を超える魔物達の群れへ次々と銀の槍が放たれる。群れの中でも特に強力な魔物を狙って放たれた銀の槍は着弾すると同時に周囲の魔物達を巻き込んで爆発を引き起こした。


「す、すげぇ…」

「司教様ってなにもんなんだ…?」

「騎士をしていたって?どこの国だ…?」


 次々と強力な魔物が吹っ飛ぶさまを見せつけられて呆然とする冒険者達。


「呆けている暇はありません!私の攻撃だけでは全ての魔物を殲滅することはできません!それに乱戦ではこの攻撃はできませんよ!!」


 どこから取り出しているのか銀の槍を放ち続けるスワン司教の声が冒険者達の頭の中に直接届く。プレスも使ったことがあるがダンジョン内などで僧侶職が味方を鼓舞するときや、盾役が魔物のヘイトを集めるときに使用する魔導声音まどうせいおんなどと言われる技法である。


 はっとして我に返った冒険者達が前方を確認する。確かにスワン司教の攻撃で強力な魔物とその周囲の魔物達は斃せているが数が多すぎるのか斃しきれなかった魔物達は徐々に冒険者達に迫りつつある。


「魔法が使える者達の射程距離に入ってあなたがたの攻撃が届いたとしてもこの数では難しいでしょう。乱戦になることは避けられません。もちろん私も戦いますがね」


 スワン司教の言葉に冒険者達は状況を理解する。冒険者は騎士ではない。現在、陣形を整えてはいるが冒険者は基本ソロかパーティの単位でしか戦闘を行わないため集団での防衛戦は不慣れと言えた。多数対多数の戦闘では乱戦になることが常なのである。


ひるむな!司教さんの攻撃で強力な魔物は数を減らしている!魔法が使える者は前へ!射程に入り次第ありったけの攻撃魔法をぶち込め!!武器を扱える者達は戦闘の準備!!魔法攻撃で斃せなかった魔物を引き付けこの場で一気に叩く!!近接戦闘はソロとパーティ組んでるやつ入り乱れての乱戦となる!周囲の状況確認を忘れるな!!」


「「「「おう!!」」」」


 リーダーを務めるA級冒険者の声に士気を高めて呼応する冒険者達。その様子を見ながら銀の槍を放ち続けていたスワン司教が怪訝な表情を浮かべる。


『数が多い…。どうやら二千以上はいるようですね…。それにしてもどうしてあのように統率が取れた動きでこちらに向かっているのでしょうか…』


 心の中でそう呟く。魔物にはドラゴンのように人族の言葉を解する高い知能を持った種類が存在する。そのような魔物達の群れが統率の取れた動きをするのであれば理解も出来るが、スワン司教の視線の先にはゴブリン、オーク、コボルトといった一対一であれば低級の冒険者が相手をできるような種類の魔物までが隊列を組むかのようにしてこちらに向かってきている。スタンピードというのは正気を失い狂乱した魔物達が全方位的に暴れまわるものでこのように進軍のような形をなすものではない。


「何者かに操られている…、ということでしょうね…」


 今度の呟きは口から洩れた。


『そのことは置いておくとして私は数を減らすことに努めましょう…。やれやれ、やはりこのままでは限界がありますね…。もしここにいる方々が本当に危ない場合は躊躇するつもりもないのですが…』


 次第に魔物の群れとの距離が縮まる。近づいているのは低ランクの魔物だが数が多い。射程距離に入ったのか魔法を使える者達から次々と攻撃魔法が放たれる。氷の矢が魔物の頭部を貫き、火球が魔物を燃え上がらせ、雷撃が魔物を黒焦げにする。だが魔物の群れは止まらない。


「来るぞ!ここからは近接戦闘だ!!」


 冒険者達がそれぞれの武器を構える。


「やはり私が先陣を切らせて頂きます!!」


 穏やかながらに強い意志のこもった中低音バリトンが響く。スワン司教が銀の槍を手に他の冒険者達に先んじて駆け出した。


「「「司教さん!?」」」


「まだ後方に強い魔物が残っているかもしれません。出来る限り魔物を狩りつつ群れの後方を目指します!!」


「バカな!!どうやってこの大量な魔物達の中を…」


 スワン司教の背後から声をかけたA級冒険者はその光景に息を呑んだ。それはスワン司教が銀の槍による一振りで数十の魔物を蹴散らしながら群れの奥へと駆けてゆく圧巻の光景だった。

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