第242話 行動開始
プレス、ティア、スワン司教、マルコによる打ち合わせの翌朝。空は雲一つない青空となり、冬の澄んだ空気が肌に心地よかった。
「…確か主殿の話だと丘の頂上にあるこの入り口から地下に広大な迷宮が広がっている…、そして迷宮は常に変化している…、か…」
ここはダリアスヒルの街に取り囲まれた丘の頂上。そこにある洞窟の入り口と思われる大穴の前に先ほどの呟きと共に佇む金髪の美形はティアである。
いつものように魔導士風のローブを纏ったティアはぽっかりと空いた洞窟の入り口を眺めながらプレスとスワン司教から聞いたダンジョンの説明を繰り返していた。それによるとダリアスヒルのダンジョンは迷宮型と呼ばれる洞窟が迷路のようになっているダンジョンであり、その構造は時と共に常に変化しているという。それ故に最深部というものが不明であり未だ全容が明らかになっていない未踏破ダンジョンとのことであった。そして、
「そのコアは移動型…。もしそうであれば広大な迷宮を地道に探索するしか方法はないか…」
ここダリアスヒルのダンジョンコアは移動型と伝えられておりその姿を見た者はいない。レーヴェ神国聖印騎士団にもこのダンジョンを探索した記録はなかったとのことだった。
「さてと…、主殿の最悪のシナリオが架空のものでありますように…」
晴天を仰いで瞳を閉じそう祈る。そうしてティアは魔導士風のローブを翻すとダンジョンへと飛び込むのだった。
一方で…。
「ククク…。これがあれば…」
暗い部屋の一室で不気味な笑い声と共に呟くのは魔剣士のジャーメイン。その手には奇妙な絵柄が描かれた小箱があった。そっと箱を開け中身を確認する。その箱は波打つ液状の漆黒な物体で満たされていた。
「闇の魔道具『核の捕食者』…、これが滅びを与える…。そしてこっちがコアへと俺を導いてくれる…」
小箱と共にその手にあったのは小さいコンパス。これも魔道具でありダンジョン内で使用するとその針はコアの場所を指すという。
「これでこの街と邪魔者を排除する。我々と我が君のその崇高な理想のために…」
全身漆黒のままに赤く裂けた口元をニヤニヤとさせながら魔物は行動を開始した。目指すのはダリアスヒルのダンジョンである。本当は一息にコアまで辿り着きたいが転移の魔道具はダンジョン内では使えない。ティアやレーヴェ神国聖印騎士団の分隊長クラスといった極めて強力な魔力を持ちつつ転移魔法が使えるのであればダンジョン内の転移も可能であるが魔剣士のジャーメインには不可能であった。
そのためジャーメインもダンジョンに潜る。それはティアが飛び込んだ数刻後の出来事であった。
さらにその一方で…。
「騎士団は冒険者と連携し街の警備の強化を!嫌な予感がするわ!!騎士団は最高レベルの警戒を!!」
「はい!!マルコ教官!!」
ダリアスヒルの街に展開されている星雲騎士団の面々を前に指示を飛ばしているのは褐色の巨漢。神でありながらこの世界に顕現したマルコである。
「はー。相変わらず見事な教官ぶりだね…。この騎士団も訓練でみーっちりと絞られたのかな…?」
「ええ。なかなかに厳しい訓練を行っているようですね…」
マルコの様子に昔を…、若かったころに相当きつい訓練を課されたことを思い出したのかぐったりしたように話すプレスとそれを肯定するスワン司教。マルコはレーヴェ神国において美容関係の商会を率いる一方で騎士団の教官としても名を馳せていた。商会の長として表に出ることは少ないが、騎士団の教官としてのマルコがかなり昔から存在していることは騎士団の皆が知っている。その正体については半ば公然の秘密といった状態だった。そもそも他人に話しても誰も信じない内容だからである。
そうして星雲騎士団に指示を伝えたマルコがこちらに合流する。
「プレスちゃん!これから冒険者ギルドに行くわ。ギルドマスターには昨日の打ち合わせ通りでいいわね?」
「ああ。隠し通せるものでもない…。ある程度は真実を話そう。ただシナリオはおれの勝手な推測だ。対応はしてもらえないかもね…」
「その時はプレスちゃんの立場で頼めばいいのよ!」
「ま、まあそうだけど…。ちょっと職権乱用だよね…」
そう答えるプレスの手元には手のひらサイズの金属でできた一枚のプレートがある。そこには鷲と剣、そして背景に城があしらわれた美しい紋章が刻まれていた。レーヴェ神国聖印騎士団の団員であることを示すプレートである。冒険者は絶対にレーヴェ神国と対立しない。冒険者の鉄則である。
「プレストン。恐らく必要になりますよ」
何でもないといった風でスワン司教がそう言ってくる。
「使わないならそれに越したことは無いのだけどね…」
溜息と共にそう答えるプレス。話しながらもプレス、スワン司教、マルコの三人は冒険者ギルドを目指すのだった。
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