第239話 魔力回路に関する一考察
プレスが語るロマナ=ダリアスのもう一つの研究結果とは…。
「司教様、おれがレイラさんにやったことを見ていたよね?」
「ええ。あなたのすることで驚くことはもう無いだろうと思っていました。ですがあのような
スワン司教が納得、感心、呆れが入り混じった言葉と表情をプレスに向ける。
「聞いた時は驚いたが我でもそのような魔力操作は難しいぞ…」
「ちょっとした神の所業よね…」
ティアとマルコもそう呟く。二人にとっても俄には信じがたい所業であった。
このダリアスヒルの街でA級冒険者をしているレイラは黒い魔物達に捕らえられ、自身の魔力回路を漆黒のスライム状の魔道具に浸食された。その結果、魔力回路を支配されたレイラは闘争本能のみを解放され、自身の身体を顧みず、痛みも感じない状態でその生命活動を停止させるまで戦い続ける状態にされたのだった。
そんな状態のレイラと相対したプレスは
そのためプレスが行った
「あれは即興だったけど本当に上手くいったよ…。だけどね…」
パラパラとプレスは天文学者ロマナ=ダリアスの研究内容が記載された本のページを捲る。
「これを見て…」
「「「!?」」」
プレスにそう言われ開かれたページを覗き込んだ三人が固まる。そこには、
『魔力回路の異常もしくは損傷を回復させるための手法に関する一考察』
というタイトルが載っていた。
「プレストン…。まさか天文学者ダリアスは…」
スワン司教の言葉にプレスが頷く。
「戦闘での負傷や何らかの呪いを受けることで魔力回路が上手く使えず魔法が行使できないことは昔から知られていた。現在では研究が進んだから魔力回路は性能は様々だがこの世界の人型の生命体であれば誰でも持っている体の器官で神経に近いってことが知られている。概念として根源的な生命そのものに近い存在であるとも言われているけどね。確か昔はもっと神秘的かつ不可思議な存在として認識されていたと思う…。だけどダリアスは数百年前に既に魔力回路は生体の器官の一つであるという考えに辿り着いていたらしい。そして魔力回路の詳細を分析したダリアスは魔力回路を復元することが可能だという結論に達したみたいだよ」
そう言ってプレスはさらにページを捲ると複雑な図が表示されたページを三人の前に広げる。
「司教様、この図っておれがやったことと大体同じだと思わない?」
「…確かに
スワン司教は驚きながらもそう答える。
「ただしこの手法もダリアスは実現することができなかったらしい。理論上は完成できたが魔力回路を復元するための膨大な魔力を集めることができなかった、と記載されていたよ」
プレスはそう説明する。
「それでも理論上の完成までに至ったことが驚愕よね…。プレスちゃんの
マルコも驚きを隠せないようだ。
「だけどダリアスはこの研究も禁忌とした…。魔力回路の詳細を分析したことでその内容を理解できた場合、魔力回路に意図的な影響を与えることも可能であるとダリアスは結論づけた。この本には理論を悪用することで対象を狂戦士化させる可能性について言及されているよ」
「主殿…、それはレイラ殿がされていたことだな…?」
ティアの言葉に同意を示すプレス。
「ああ。間違いない。ダリアス本人は真にこういった研究を人の役に立てたかったのだろうけどね…、あの黒い魔物達がこの本を悪用している…」
そう答えて俯くプレスの表情は暗い。
「主殿?気になることがあるのか…?」
ティアの言葉にプレスが顔を上げる。
「気になるのは行方不明者が結構な数いるってこと…」
このダリアスヒルの街で発生している行方不明事件は過去数年にわたって起きていた可能性が高い。その行方不明者にこの方法が悪用されていた場合…。
「三人とも今後は気を付けてくれ…。ちょっと面倒なことになるかもしれない。嫌な予感がする…」
プレスはそう言うと今後の行動についての話し合いを行うのだった。
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