第238話 ダンジョンに関する一考察

 プレスの説明はなおも続く。


「ダリアスはどこかのダンジョンでダンジョンコアに遭遇したことがあったらしんだ。そのときに可能な限りの測定を行った結果、ダンジョンコアに意思のようなものが存在することを確信したと書いてある。そしてダンジョンコアが持つ魔力と同等の波長と強さを持つ魔力を実現できたのであればその魔力を介することでダンジョンコアと意思の疎通が可能ではないかと推測している。驚くのはその魔力量を実際に計算し推定している点だね…。そしてその計算内容はが魔道具の説明に使う数式とほぼ同じものが使用されている」


 プレスのその言葉にスワン司教とマルコが目を見開く。そんな二人に記載されている数式を見せるプレス。


「この記載なら私も理解できます…。これは彼女の発案だと思っていましたが…」

「あたしもあの子の発明だと思っていたわ…」


「あいつがこの本を知っていたとは思えない。あいつがこの計算方法を見出したのは本人の才能と努力だろうね。だけどダリアスはあいつが到達する数百年前にこの知識に辿り着いていた…」


 プレスの言葉に二人は改めて驚きの表情を浮かべ固まった。


「あ、あの…、主殿…?すまないのだが先ほどから言っているというのは…?」


 ティアにそう言われてプレスがハッとする。


「ティア、ごめん。話していなかったね…。っていうのはレーヴェ神国聖印騎士団の四番隊隊長だよ。名前はカレン=ハイウィンド。魔道具や武器を研究している天才さ。レーヴェ神国に着いたら紹介するね。面白い子だけど正真正銘の天才だよ」


「…とするとミケ殿やサラ殿と同じ立場の人物ということになるのか…。ダリアスは彼女たちミケ殿やサラ殿と肩を並べる人物と同等の知識を持っていたと…。それはいささか驚くべき事実であるな…」


「ああ。それで司教様とマルコがこんな風になっている」


 そう言って二人を見るプレス。


「ただしダリアスはこの研究を実現することができなかった。必要となる魔力量が多すぎたらしい。当時はそんな魔力を扱うことができる魔導士と出会うことができなかったと記されている。そして研究の途中でこれを禁忌として研究中止としたようだね…」


「主殿?その経緯も…?」


「ああ。全部書いてあったよ。このダンジョンコアとの対話方法はダンジョンコアに魔力的な影響を与えることも可能になるってね。理論上だけど悪意を持ってダンジョンを意図的に操作し暴走させることも可能だとダリアスは結論づけたようだ。つまり悪用すれば自在にスタンピードなどを起こせる強力な兵器としてダンジョンを利用できる…」


「ん…?主殿…、それは港湾国家での…?」


 ティアが気づいたらしい。プレスはティアに頷き返しつつスワン司教とマルコに視線を送る。二人とも瞬時に理解したようだ。


「まさか…、プレストン…。あなたが倒したというダンジョンコアに取り付いた魔道具とは…」

「あたしもミケちゃんとサラちゃんから聞いているわ。ダンジョンに悪影響を与えるおぞましい存在って…」


 プレスの表情は彼らの言葉を肯定する。


「そう。おれとティアが港湾国家カシーラスで遭遇したダンジョンコアに異変を与える黒い魔道具はこの研究を悪用して造られたものということでまず間違いない。あの嫌な感じのする魔力から察するにかなりロクでもない方法で魔力を集めたのだろうね…」


 そう言うプレスの口調は固い。


「黒い魔物達の技術の一端を垣間見た感じだけど、それだけじゃない…」


「主殿?まだあるのか!?」


 プレスはティアに頷くと天文学者ロマナ=ダリアスの…、彼のその驚くべきもう一つの研究結果を説明するのだった。

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