第237話 天文学者ロマナ=ダリアス
プレスが手に取ったもう一冊の本を開く。随分と古いものらしくイーライ=アズグレイの日記とは随分と装丁が異なる。各ページには羊皮紙が使用されており、その黒い表紙はどのような材質なのかよく分からない。
「主殿?その本は一体どのようなものだったのだ?」
ティアが首を傾げつつそのように問う。
「この本はね…。ダリアス…、天文学者ロマナ=ダリアスの研究内容が記されていたよ…」
「それは珍しい…」
スワン司教が思わず呟く。
「珍しいものが出てきたわね…。でもダリアスの研究成果が記された書物って、数百年前…、この土地にレーヴェ神国の影響がなかった時代に奪われたって聞いたわ。その大部分はガーランド帝国の国立図書館に封印されていた筈よね…?どうしてこんな大陸の東にあるのかしら…?」
マルコもそう反応した。
「この街のどこかに眠っていたのかもしれないね。それをイーライ=アズグレイが入手した。彼は帝国の研究機関か図書館に売りつけることを考えたのかもしれない…。あの黒い魔物達とガーランド帝国、フレデリカ聖教国はつながっているらしいから…、彼の言っていた危ない取引というのは嗅ぎつけた黒い魔物達との取引かな…?もしくはガーランド帝国でこの本が見つかってこの街に持ち込まれた…。でもそうなるとアズグレイ商会の危ない取引の内容がよく分からないね…。ま、この辺りはイーライ=アズグレイ本人が死んだ今は解明できないかもね」
プレスはそんな推察をする。
「主殿?それでその本には何が書かれていたのだ?」
その問いを発したティアにプレスが向き直る。
「ティア!これはとんでもない代物だった…。これは天文学者ロマナ=ダリアスがこの世に広めることをよしとせずに禁忌とした研究内容を彼自身が纏めたものだったよ…。そしておれは誤解していた…、天文学者ダリアスはおれの想像を遥かに上回る天才だった…」
「どういうことだ?」
ティアの言葉にプレスはあるページを開く。
「まずこれを見てほしい…」
そこにはタイトルとして『ダンジョンコアとの対話法に関する一考察』と書かれていた。
「現在でもこの世界のダンジョンがどういった存在であるのか、という疑問は完全には解明されていない。一説には内部は異世界の一つと言われていて、ダンジョンコアが存在しその影響で魔物が生み出される…。その辺りは解明されてきた。だけどなぜダンジョン内に侵入者の利益となる宝箱があるのか、侵入者の不利益になるトラップがあるのか、そしてそれらを設置したのはダンジョンコアなのか、それに関連してダンジョンコアに意志はあるのか、といった事柄は解明されていない。異端の研究内容としてダンジョンコア以上にダンジョンを管理する神のような存在があり、その存在が戯れに、もしくは何らかの目的をもって侵入者を招き入れているのでは、というものもあったが推測の域を出ていない」
プレスの言葉にスワン司教とマルコが頷き、ティアが『そのようなものなのか…』といった表情をする。
「あたしもダンジョンについてはよく分からないのよね…」
マルコがそう話す。ダンジョンというは、よく分からないが世界に利益をもたらす存在であると共に危険な存在でもある、というのが多くの人々が抱いている印象であった。この世界の神であったマルコもダンジョンの仕組み自体はよく分かっていないらしい。
「だがダリアスは違った。この記載によると根拠は記されていないけどダリアスにはダンジョンを何らかの上位者がその指示の下に運営している別空間であると定義することができる確信があったらしい。その確信の下、あたかも生物のように上位者の意思を実現するように働きかける存在、そうである自身もまた意思を持った存在がダンジョンコアであるという仮定をしたらしい…。そんなダンジョンコアとの対話を可能にして、より冒険者が活動しやすいダンジョンを造ることが可能になれば人々の暮らしが楽になるって考えた研究だったようだね…」
天文学者ロマナ=ダリアス…、今より数百年前、彼のその知識は驚くべき高みへと至っていたのだった。
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