第235話 巨大な金色に光り輝く火球

隠者の盾シールド・オブ・カバーアップ!!展開オープン!!」


 頭上に出現した巨大な金色に光り輝く火球ファイアボールを見上げつつもプレスがそう唱える。途端に膜状の結界が光り輝く火球ファイアボールごとプレスと魔物達を覆うように広い屋敷の庭へと展開された。


 これは音や光を外部へ漏らさないための結界を展開する魔法。冒険者のパーティや商人が他人に聞かせたくない打ち合わせなどを行う場合に使用される汎用魔法と呼ばれるものの一つである。しかしプレスが用いる場合はかなりの強度を持たせることも可能である。例えば巨大な金色に光り輝く火球ファイアボールが炸裂したことによって発生する音と衝撃であってもこの結界内に留めることが可能となるのだ。


 結界が展開された瞬間にプレス目掛けて金色に光り輝く火球ファイアボールが落下する。火球ファイアボールは当たると爆散し広範囲に熱ダメージを与えることが特徴の魔法である。今回のような規模の火球ファイアボールであればその威力は凄まじい。地面へ着弾するのと同時に火球ファイアボールが猛烈な勢いで爆散し結界内が金色の炎で覆いつくされる。当然の如く黒い魔物達はその炎に巻き込まれた。しかし音も衝撃も光も全く外部に漏れることはない。火球ファイアボールが出現したほんの一瞬だけ周囲が真昼のように明るくなったが騎士や冒険者の指示通りに建物内にいた住民は殆ど気付かなかった。


 ティアは金色の炎によって焼き尽くされている結界内の惨状を想像しながら近くの建物の屋上から屋敷の庭を見下ろしている。


「ティア!完璧だったよ。ありがとう」


 背後からそんな声がかかる。


「さすがの我も主殿を目掛けてあの火球ファイアボールを放つのは少々抵抗があったぞ…」


 ティアの絶世の美貌を讃える表情が少し固い。


「ごめん。嫌なことをさせたね。でもあの魔物達も斃せたと思うしもし生き残っていてもおれが生きているとは思わないだろう?本当に助かったよ」


 そう言ってティアの頭を撫でるプレス。途端に表情を緩めるティア。嬉しいらしい。その笑顔は見事なまでに美しかった。


「ふふふ…。遠慮なくもっと撫でてよいのだぞ…」


「よしよし…」


「ふふふ…」


 結界を見下ろしながらじゃれ合う二人。もちろん周囲の警戒を怠ってはいない。火球ファイアボールが着弾する寸前、プレスはその全速をもって結界内から脱出していた。隠者の盾シールド・オブ・カバーアップはかつてプレスが使用した絶対防壁シールド・オブ・ヘリオスとは異なり任意でプレスのみを通過するように設定することも可能だったのである。


「それにしても主殿。あれほどのことをする必要があったのか?主殿であれば苦も無く斃せた魔物であっただろう?」


「そうだね…。最初はこの街で好き勝手やったあいつらを驚愕させたかったからね。だけど結果としてかなり有効な攻撃になったみたいだよ…」


「?」


 ティアの表情に疑問符が浮かんだことを見てプレスは言葉を続ける。


「監視の目を感じたのさ…。あの黒魔物が部屋に現れたと同時に別の誰かもおれを見ていたような…」


「だから…」


「そう!第三者の視線も併せて殲滅するにはあの火球ファイアボールは最高だよね。感じていた視線も消えたしね。きっと遠くで見ていた者もおれが火球ファイアボールに飲み込まれたと思っている筈だよ」


「流石だ!それで何か得るものがあったのか?」


 ティアのその言葉に頷き返すプレス。


「ああ。ちょっとヤバいものが手に入ったかもしれない…。孤児院に戻ったらしっかり確認しようと思う」


 その言葉を合図にプレスとティアは夜の闇の中、孤児院を目指して移動を開始するのだった。

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