第230話 明日の行動を確認する
「アズグレイ商会といえばこの街を本拠地にして小規模だけど堅実な商いをしている商会よね」
スワン司教の言葉にマルコが説明を加える。
「アズグレイ…、聞いたことがある…。確か司教様の戦友…、だったかな?」
そう問われスワン司教はプレスへと頷き返す。
「ええ。アズグレイ商会を立ち上げたカイラス=アズグレイは私の友人です。ですがカイラスが亡くなって随分と経ち商会と私との交誼は途絶えています。当代はイーライ=アズグレイという者ですが…」
「この街に拠点を構える商会なのに司教様との接点がない?」
プレスが少し驚く。この孤児院はレーヴェ神国の直轄として運営されている。放浪神マルコを祀る教会の役割も担い祈りや相談に訪れる住民も少なくないし、スワン司教は街を代表する人格者として人々の尊敬を集めていた。抜け目のない商人であればこの孤児院とスワン司教がレーヴェ神国の中枢に何らかの繋がりを持っているということに容易に辿り着けるはずである。スワン司教が特定の商会に何らかの便宜を図ることなどありえないが、もしもの時のために交誼を結んでおこうとしてスワン司教の元を訪れたり、孤児院に寄付などを行う商会は一定数存在した。
「そうですね。私とも孤児院とも交誼を結ぼうとしたことはありません。どうもイーライという人物は人前に出ることを嫌うらしくこの街の催しや集まりにはいつも代理の者が出席していましたね…」
スワン司教の言葉に俯いて考え込む様子を見せるプレス。
「…今回の件にそのアズグレイ商会が関係しているのかな…」
「プレストン…」
スワン司教にそう言われて顔を上げるプレス。
「そう決めつけるのは早いよね…、でもその屋敷に何かがあることは確定ってことかな…。さてと…、明日の行動を確認しようか!」
プレスがそう言うと三人が同意の意思を示す。
「あたしは騎士団に冒険者ギルドと連携して街の警戒の続行を指示するわ。それと騎士による住民への説明が必要になると思うからそっちの段取りもしておくわ」
「人に化けた魔物が冒険者ギルドに現れた…。まだ討伐はできていないし危険な魔物の可能性が極めて高いので外出はなるべく避けてほしい。見回りの冒険者や騎士が街を巡回しているから、どうしても外に出る用事があるときは彼らの近くにいてほしいって感じかな?」
「ええ。その辺りを落しどころにしてみるわ!」
びしっと親指を立ててみせる褐色の巨漢。
「司教様、あの魔物がどうして孤児院に侵入しようとしたのか、その意図がまだ分からない。引き続き孤児院を…、シスター達や子供たちを護ってくれ!」
「分かりました。今度はマルコ様とサラ以外の転移を弾くように結界を強化することにしましょう」
スワン司教がそう応じる。
「主殿?我らは明日、どのように動くのだ?」
そう問いかけるティアにプレスは向き直る。
「ティア!今日はお疲れ様!ティアの活躍のおかげで事件の真相に迫れそうだよ。先ずはゆっくり休もう。動くのは明日の夜になるね。冒険者はならず者だから問題ないかなーって思ってる…」
「ん?どういうことだ?」
「ふふふ…、折角の手がかりだからね…。黒い鉄のレースに赤い屋根の大きな屋敷ってところに行ってみよう!」
そんなことを言うプレスの顔には少しだけ悪い笑みが浮かんでいた。
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