第229話 情報をまとめる

「司教様、おれはこれからグエインさんとリルくんを連れてくるよ。きっと早い方が状況をあの黒い魔物達に勘付かれないと思う…。奥さんが魔物にさらわれたことを悲観してこの街を出た…、って扱いにできるといいな…」


 孤児院の一室にあるベッドへとレイラを運んだ後、プレスはレイラの夫であるグエインと息子のリルを呼びに行こうとしていた。グエインとレイラはこの街で有名なA級冒険者だけあって彼らの住居はスワン司教が知っていた。


「レイラには既にシスターたちが治癒魔法を施しました。彼女の外傷はそのままですが障害が残るような深刻な怪我は残していません。この外傷を通常の方法で治療するには結構な時間が必要になる。問題が解決するまでここで家族三人ゆっくりして頂くとしましょう。グエインへの手紙をしたためました。これで彼は素直にここまで来てくれるはずです」


「流石は司教様!慕われてるね!」


「プレストンにそう言われると何やら不思議な感じがしますね…」


 プレスとやり取りをしているのは孤児院の司教であるスワン。


「では、行ってきます」


 プレスはそう言ってシスターたちとスワン司教に頭を下げると孤児院を後にするのだった。



「さてと皆の話を聞くとしようか…」


 そう言ってプレスはコーヒーカップをテーブルに置く。彼の隣にはティア、向かいにはスワン司教とマルコが座っている。時刻は深夜、ここは孤児院の大広間である。


 グエインの家を訪ねたプレスはレイラが孤児院の森で見つかったことを伝え、スワン司教からの手紙を手渡した。プレスの話を聞きスワン司教の手紙を読んだグエインは驚き取り乱しながらも準備を整えると、眠っていた息子のリルを抱え全速をもって孤児院へと向かってくれた。


 グエインを連れたプレスが孤児院に着くと、ちょうどそこにティアとマルコが戻ってきたのである。そしてグエインはスワン司教からレイラに起こった真実を聞き、現在この街の騎士団を統括し冒険者ギルドとも関係しているマルコから街の状況を聞いた。その上でレイラを襲った魔物達からの目を逸らすため、当分の間レイラは死んだと思わせ、グエインとリルはレイラが行方不明になったことにショックを受けてこの街を離れたと思わせるために家族三人でこの孤児院に留まるという提案に同意したところだ。


「ギルドも騎士団も黒い魔物の出現にピリピリしているわ。街に魔物の侵入を許したのだから仕方ないけどね…。ただ言葉を話せる魔物だったことの衝撃は大きいみたい。あまり長く続けることはできないと思うけど、街の人出に関して当分の間は制限されることが決定されたわ…」


「冒険者と騎士団の見回りは続くのかな?」


「あの子たちではあの魔物は斃せないかもしれないけど、何もしないという選択肢は選べそうにないからそうなるわね。単独行動はしないことと事前に自身の行動予定を詳細に報告することを徹底させるわ」


 マルコの報告に頷くプレス。


「あの魔物がなぜこの孤児院への侵入を試みたのかは謎のままですが、グエイン、レイラ、リルは相手に悟られることなく保護できたと言ってよいでしょう。プレストンが手強い冒険者ということは知られたでしょうがそれだけです。黒い魔物達はまだ我らの真の姿に気付いていない」


「堂々とA級冒険者に化けてギルドに現れるような連中だ。そのままでこちら…、というかこの街を侮ったままでいてほしいな…」


「ええ。そうであればこちらがつけ入る隙はあるでしょうね」


 スワン司教の話に同意を示すプレス。そしてプレスはティアを見る。


「ティア。あの黒い魔物の潜伏先は分かった?」


「うむ。我は主殿と別れた後もあの黒い魔物を追い続けた。随分と移動したが最後に奴は大きな屋敷へと入って行ったのだ」


「屋敷?」


「そうだ。我が申すまでもないがこの街は高い丘を中心に同心円状に造られている。ちょうどその丘を挟んでこの孤児院の反対側にあると言えるな…。黒い鉄のレースによる装飾の美しいバルコニーが特徴的な赤い屋根の大きな屋敷だ」


「黒い鉄のレースに赤い屋根の大きな屋敷…。もしやアズグレイ商会の別邸ですか?」


 ティアからのその報告に反応するスワン司教の声には驚きと戸惑いが含まれているのだった。

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