第228話 ちょっとした奇跡
「
その言葉が唱えられるのと同時に集められた赤紫色の光球たちがレイラを背後から貫いている金色の長剣、その切っ先へと集約される。空間全ての音が消えた…、と次の瞬間、凄まじい爆音と共に夜の闇に覆われていた孤児院の森が赤紫色の閃光によって引き裂かれ巨大な光の柱が立ち昇る。立ち昇った光の柱はスワン司教が張った結界に阻まれ天高く昇ることなく逆流し、洪水のように魔力による赤紫色の閃光が孤児院の森を飲み込んだ。
大地が揺れ、暴風が吹き荒れる。森の木々が薙ぎ倒され、森に生きる動物たちが逃げ惑う。
それほどの時間だろうか…、そう長くはない筈だが、徐々に光が治まりやがて森が再び夜の闇に覆われる。
「上手くいったかな…」
そんな呟きと共にプレスは素早くレイラから金色の長剣を引き抜いた。紙に魔法陣を描いて唱える。
「
長剣が木箱に収納され周囲は完全に夜の状態を取り戻した。
「ふー…、おっと…」
プレスは倒れかけたレイラを抱きとめ状態を確認する。よくよく観察してプレスは安堵の表情を浮かべた。そこには傷だらけでボロボロだが間違いなく人族と呼んで問題のない状態のレイラが意識を失っていた。
「大丈夫でしたか?」
穏やかな
「司教様…。なんとか上手くいったみたいだよ。それにしても、やっぱり結界の中の出来事はぜーんぶ把握していたよね!?もうちょっっっっと早くに助けに来てくれてもよかったんじゃない?」
「あなたに私の助けが必要な時があるとは知りませんでした。それはさておきあの黒い魔物は逃がしてよかったのですよね?だから転移の魔道具を使って逃走する時、結界を強化しなかったのですが…」
「さすがは司教様!これぞ阿吽の呼吸だね!ってことはさっきの魔力の柱と光の洪水も…?」
「ええ。プレストンがものすごいことをしそうだったので咄嗟に隠蔽の効果を付与しておきました。外部の者には気付かれていない筈です」
「ということはあの黒い魔物達に勘付かれることなくレイラさんを助けることができたってことかな…。あいつは恐らくおれがレイラさんを殺したと思っている…」
「でしょうね。しかし驚きました。
感心しているスワン司教の言葉に笑顔で答えたプレストンは抱きかかえているレイラへと視線を落とす。
「ごめんね、レイラさん。いまここであなたの傷を完全に治すとここにいる理由を上手くグエインさんとリルくんに説明できなくなりそうなんだ…」
「魔物に襲われていたところをあなたが助けて孤児院に運び込んだ…、といったところでしょうか?」
「そんな筋書きでグエインさんとリルくんを呼んでくるつもりだよ…。しばらくは死んでいることにしたいからグエインさんとリルくんを会わせたら三人そろって孤児院に居てもらうことになるけどね…。その後なら真実を話してもいいかな…。司教様!彼女の治療をお願いできる?」
「もちろんです!さ、こちらへ…」
そうしてレイラを抱きかかえたプレスはスワン司教の案内で孤児院の建物を目指すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます