第227話 再構築!

 プレスが構えた金色の長剣が輝きを放つ。既に太陽の落ちた孤児院の森に光が溢れた。その眩いばかりの光を前にレイラが怯む様子を見せた。


「行くぞ…」


 神速での移動を開始したプレスは瞬く間にレイラの右側面を駆け抜ける。


「ガアアアアアァァァァァ!!」


 同時にレイラの絶叫が森全体に響き渡る。駆け抜け様にプレスはレイラを…、その背後に寄生している黒いスライム状の魔道具と共に袈裟懸け状に叩き切った。その美しくも凄まじい斬撃は確実にレイラの上半身を両断した。しかしレイラは絶叫と共に未だ立ち尽くしている。その両断された切り口が金色に光り輝く。


「ちょっと我慢してね…。せい!!」


 気合の言葉と共にプレスそんなレイラを背後から漆黒の魔道具ごと金色の長剣で貫いた。更なる絶叫が孤児院の森へと響き渡る。金色の魔力がレイラを中心として周囲に溢れる。


「彼女の魔力回路は全て浸食されたから…。その全てを再構築…」


 プレスが呟く。神々を滅するものロード・オブ・ラグナロクの魔力がレイラの魔力回路に新たな浸食を起こし、全身を蝕んでいる漆黒の魔道具とその影響そのものを滅ぼし始める。


「これが破損したダンジョンコアならそのまま神々を滅するものロード・オブ・ラグナロクの魔力で置き換えられるけど…」


 しかし人族の身体では神々を滅するものロード・オブ・ラグナロクの魔力は負荷が大き過ぎて使えない。


「だからこれを…」


 プレスは金色の長剣の柄から左手を離して開いた。その開いたてのひらに赤紫色の光球が現れる。しかしそれは一つではなかった。赤紫色の光球はプレスと背中から貫かれているレイラの周囲に続々と現れた。


 それはプレスによって集められた大気中の魔力。


 この世界の魔法は体内にある魔力を自身の魔力回路によって術者が望む形の効果に変換するということが基本となっている。しかし儀式魔法や大規模殲滅魔法などでは大量の魔力を補うために大気中の魔力を使用することがある。しかしそれは簡単なことではない。できる者がいないわけではないがこの世界に生きる殆どの種族は大気中の魔力を体内に取り込むことができない。ということは大気中の魔力は体内の魔力回路を通さずに使用する必要があるということになる。


 そのため大気中の魔力を術者が望む形で使用するには、最初にそれ専用の大規模な変換術式とそれを操作する多数の達人と呼ばれるクラスの術者を集めることが必須とされていた。


 そんなものが一切ない孤児院の森の中、プレスは左手一本で大気中の魔力を集める。そしてそれは無詠唱による多重詠唱と同時操作によってなされている。


 無詠唱による多重詠唱と同時操作…。魔力を扱う者や魔導研究者にとってその技術を会得することは生涯の夢とされており、三大魔導士とよばれるような一握りの存在だけが辿り着ける境地。それを苦も無く行使するプレスの姿を魔法に詳しいものがその光景を目の当たりにしたのであれば、その常識から余りにもかけ離れた状況に口から泡を吹いて倒れているだろう。


「ウイイイイイイィィィィィィ!!」


 レイラから彼女ではない何かの断末魔のような音が漏れ始める。レイラの魔力回路と同化した漆黒の魔道具が金色の魔力によって消滅しかけているのだ。


「そろそろかな…」


 プレスの呟きと同時にレイラの全身から金色の魔力が溢れ出す。金色の魔力がレイラの魔力回路全てを新たに満たし黒い魔道具の影響を完全に取り払ったのである。しかしそれはレイラの魔力回路の消失を意味していた。


「魔力回路を失ったら時間はない…。頼む…、上手くいってくれ!!」


 両断された上半身はいつのまにか修復されている。プレスはレイラを背中から貫いている金色の長剣をそのままに左手をレイラの背中へと当てた。


再構築リコンストラクション!!」


 プレスの声が孤児院の森に響くのだった。

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