第207話 ギルドからの情報

「住民が行方不明?この街で?」

「……………ふむ…」


 思わず聞き返すプレスとそれに合わせて怪訝な表情を浮かべるティア。


「はい。現時点ではそれ以上のことは分かっていません」


 そう答える冒険者ギルドの受付嬢の顔にも疲労の色が見て取れる。


「魔物に襲われたというのでは?」


「当初はそのように考えられていました。魔物によって命を落とされる方については一定数おられますから…」


 そう答える受付嬢。この大陸では一歩街の外へと出ればその身は魔物の危険に晒される。それ故に冒険者等を護衛に雇うのだ。当初はそういったありふれた事件と考えられていたらしい。


「しかし先々月は街中にいることが確実であった住民が数名行方不明になったのです。そこで騎士団が過去の行方不明者の動向を精査したところそれ以前の行方不明者の中にも数人が同様に街中で行方不明になっている可能性が浮上したのです」


「そして先月…」


 プレスの呟きに受付嬢が目を伏せ答える。


「はい…。騎士団も警備を強化していたのですが、先月、行方不明の直前まで街中にいたことが確認されていた五歳の子供が姿を消したのです…。事態を重く見た騎士団は住民に情報をある程度開示し注意を促すとともに冒険者ギルドにも協力を求めたのです」


「なるほど…」


 現状にプレスは理解を示す。この街の衛兵や治安維持を担っている騎士団はレーヴェ神国から来た者達の筈である。彼らは決して無能ではない。この世界で魔物に襲われることによる行方不明は珍しくない。そう考えるとこの街の騎士団の対応は適切かつ迅速であったと考えるべきだ。


「そのためギルドでは期間を区切ってC級以上の冒険者の方を街の警備に雇うという恒常的な依頼を出すことになりました」


「依頼の条件とかは掲示板に?」


「はい。詳細はそちらを見て頂いたほうが早いかと。もし依頼を受けられるのでしたらまた受付へ来て頂ければと思います」


「分かった。ありがとう。あ、それともう一つ聞きたいのだけれど…」


「何でしょう?」


「孤児院の子供たちは無事なのかな?」


 プレスの問いに受付嬢は意外といった表情を浮かべる。


「この街に孤児院があることをご存じとは…、以前もこの街に…、あ、すみません。個人的な事でしたね…。孤児院については特に問題が起こったとの話は聞かされておりません。ギルドマスターからは孤児院については司教様との話し合いがあったとかで、冒険者の皆様への依頼も孤児院は範囲外となっております。なんでも相当の手練れを雇う伝手があるとか…。私も詳しくは存じ上げないのですが…」


「いろいろとありがとう。とりあえず掲示板を見てみるよ」


 プレスの言葉に黙って頭を下げる受付嬢。プレスはティアを伴い掲示板へと移動する。


「主殿…、あまりよくない状況ではないか?」


「ああ、この街の騎士団は優秀な筈だから…、もし事件なら厄介かもね…。何者かによって画策されたもの…、かな…」


 そう話しながら掲示板の前に立つ二人。そこには他の依頼に交じって一枚の依頼が留められている。


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 依頼内容:騎士団の指揮の下、複数パーティで街の警備と巡回(詳細は依頼受託後に説明)

 達成条件:一定の期間内で街の警備と巡回を行う

 依頼者:ダリアスヒル星雲騎士団及び冒険者ギルド

 報酬:

  S級:金貨一六枚(二週間)

  A級:金貨八枚(二週間)

  B級:金貨四枚(二週間)

  C級:金貨二枚(二週間)

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「なるほどね…。騎士団の指揮下か…。それにしても結構な報酬だ。騎士団も本気という訳だね…」


「主殿、この依頼を受けるのか?」


 ティアの問いにプレスはしばし考える。そしてティアへと向き直った。


「ティア…、今は保留だ。そして明日でいいと思っていたけどこれから孤児院に行こうと思う。司教様ならギルド以上に情報を持っているかもしれない」


「その司教様というお方はそれほどのお方なのか?」


「ああ、おれも昔は随分と世話になったからね。あ、ここの孤児院出身という訳ではないけどね…」


「主殿の御心のままに。我は主殿の指示に従うぞ」


「ありがとうティア。じゃあ、孤児院に行くとしようか…」


 そう言って冒険者ギルドを後にするプレスとティアであった。

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