第208話 孤児院の司教
夕闇に染まるダリアスヒルの街をプレスはティアを伴い孤児院を目指している。
「主殿、やはり我も興味がある。主殿がそこまで尊敬する司教殿というのはどういったお方なのだ?」
「立派な人だよ…」
「ふむ…」
ティアはそう漏らす。どうも納得していないらしい。
「…………他に我に言っておくことはないか?」
そう言ってまじまじと美しい金色の瞳でティアに見つめられ何故かプレスの目が泳ぐ。このような反応は珍しい。
「立派な人であることは間違いない…。う、うん…、いい人だよ…。そう…、いい人…。強いしね…。ティアもきっと…、きっと気に入ると思う…。あ、あは…、あははははははは…」
何故か額に汗を浮かべながら乾いた笑いと共に答えるプレス。
「待て待て、主殿!今、強いと言わなかったか?放浪神マルコを祀っている教会の司教にどうして強さの話が出てくる?」
「あ、ほら!あそこが孤児院の門だよ!」
プレスとティアの眼前に開け放たれた大きな門が現れる。門の向こう側は相当な敷地があるらしく森のように木々が生い茂っており中央に一本の道が造られていた。プレスは敷地内へとティアを
「あ…、まだ話は終わっていないぞ!主殿!」
そんな夫婦のようなじゃれ合いをしながら敷地に足を踏み入れようとしたプレスとティア。
「ん?」
「主殿?これは結界…?」
「「!」」
次の瞬間、二人は後方へと大きく飛び退く。と同時に何かが先程まで二人がいた位置へと着弾し凄まじい轟音が周囲へと響き渡る。大量の土煙が舞い上がりそこには巨大なクレーターが出現していた。その中心に一本、銀色に光り輝く槍が突き刺さっている。
「何者かは存じ上げませんが、ここは立ち入り禁止でしてね…。子供たちに危害を加えることはこの私が許さないのですよ…」
穏やかながらに強い意志のこもった
「ティア!動くな!」
今にも攻撃を開始しそうなティアをプレスが呼び止める。
「しかし、主殿!」
「大丈夫!」
そう言って微笑んだプレスは土煙の先にいる声の主に話しかけた。
「相変わらずだね…。司教様?」
ティアが驚きの表情を浮かべるが、土煙の先にいた人物も驚いたらしい。
「その声はプレストン?プレストン=レイノルズですか!?」
些か慌てたような声と共に一人の男が土煙を割ってプレスとティアの前に姿を現した。黒を基調としながら白いラインの入った質素な祭服を身に着けている細身の男である。身長はプレスより少し低い一.七メトル程だろうか…。頭の白い物とその表情に刻まれた幾つかの深い皺が年月を感じさせる。恐らく六十代であろうがそれにしては言葉遣いや身のこなしの随所に若々しさが感じられた。
「ああ。久しぶり!だけど驚いたよ。いきなり攻撃を仕掛けてくるとはね…。もうちょっとでティアが反撃するところだった…」
「こんな時に連れと二人で来るなら事前に連絡をしてくれないと困りますよ。いきなりとんでもない存在が二つ近づいてくるから命を懸けた最期の戦いが始まったと思いましたからね。それにしても何故ここに?」
「実はレーヴェに戻る途中にこの街で事件のことを…、ってちょっと待って順番がおかしくなった…。司教様、まず紹介するよ。おれの相棒のティアだ!」
そう言ってプレスはティアを紹介する。
「ティアと申します」
そう言って頭を下げるティア。
「いきなり攻撃などと…、驚かせてしまい本当に申し訳ありませんでした。いや…、貴女ほどの存在であればあのような攻撃は意味をなさなかったかもしれませんが…。私はこの孤児院と教会で司教をしているスワン。スワン=ロンバルディと申します」
そう言って丁寧にティアへと謝罪するスワン司教。壮年の優男といった様子であるがティアは全く異なるものを感じ取っていた。
『強い…。この強さは相当なものだ…。聖印騎士団の分隊長であるミケ殿やサラ殿と同じ…、いやそれを超える実力の持ち主か…』
そんなことを思いながら三人は互いに挨拶を済ませ握手を交わすのだった。
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