第198話 キャロルへの誓い

「キャロル。もう心配ないよ…」


 きちんとローブを纏ったティアを伴いロヨラ邸の離れを尋ねたプレスはそうキャロラインに優しく声を掛ける。時刻はちょうど正午くらい。まだまだ太陽は高い位置にある。本来はギルドへの報告を優先するべきなのだがプレスはキャロラインを助けるためにそのままロヨラ邸へと出向いていた。現在、この離れの部屋にはプレス、キャロライン、ティアの他にはキャロラインの母であるエーデルハイド=ロヨラと執事のブライがその様子を見守っている。


「レイノルズ様…。あ、あの…、シ、シロちゃんの行方が分かったのですか?」


「ああ、それにキャロルのその状態も元に戻せそうだよ…」


 既にティアにはこれからの詳細を伝えてあり、エーデルハイドとブライには大まかなことは伝えてある。プレスは傍らの木箱に手を掛けながらキャロラインと目線を合わせた。


「キャロル。これから長剣を使って君のその障壁に斬りつける。だが安心してほしい。危険なことは決して起こらないと誓おう。全部終わったら全てが解決しているはずだ!」


「?」


 唐突なプレスの言葉に首を傾げるキャロラインであるが、プレスの背後からしっかりした表情で頷いてみせる母の姿を見て笑顔を作った。


「はい。レイノルズ様…。全てをお任せします…」


 そう言ってキャロルは床へと跪き、祈るような姿勢のままその眼を閉じた。


「よし…。ティア!修復と融合に関しては君に任せる!」


「任されたぞ!顕在化は主殿が!?」


「多少は手助けをするけどね…。そればっかりはの意志次第だ…。キャロル…。ファングに…、いやシロに会いたいかな?」


「はい!会いたいです…」


 眼を閉じたままはっきりとした口調で答える。


「わかった。ではシロに会いたいと強く願ってくれ。心から強く…、強く願い続けてくれ…。いいね?」


「はい!」


「では、始める…」


 プレスは懐から紙を取り出す。そして右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当てた。


「必ず救うぞ…。天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」


 プレスがそう唱え木箱の上方が開き金色に光り輝く長剣が飛び出す。柄を握ると本来は夜のような漆黒を湛えるプレスの瞳が金色に輝いた。


「せい!」


 プレスが一足飛びに間合いを詰めキャロル目掛けて金色の長剣を振るう。


 バチッ!バチッ!


 二度…、十文字に振るわれた金色の長剣による斬撃…。神々を滅する者ロード・オブ・ラグナロクの力を伴う斬撃の力がキャロルを覆っている障壁を顕在化し、その驚くべき強固な障壁を斬り裂いた。


「よし…」


 そう呟いたプレスが何やら白い魔石のようなものを取り出す。ダンジョン『白狼の咢』で手に入れたフェンリルの記憶と意志が刻まれている石だ。


「あのフェンリルはファング…、シロの半身だ…。今こそ一つに…。その姿をこの世に現せ!!!」


 そう言いながら障壁の斬り裂かれた箇所へ、その障壁が自らの手を強力に弾こうとすることも構わずその石を強引に障壁へと填め込んだ。


「ティア!!」

「任せろ!!」


 キャロラインの姿ごと白い魔石が填め込まれた障壁をティアの金色の魔力が覆いつくす。眼を開けていられない程の光の奔流が離れの一室に溢れ出す。


「ティア!魔力を注ぎ続けろ!」


 ティアにそう指示しておいてプレスはキャロルに声を掛ける。


「キャロル!!迷うな!!おれを信じろ!!シロに会いたいと願い続けるんだ!!」


 キャロルの耳に微かにだがプレスの声が届く。キャロルは祈った。会いたいと…。父から託された大切な親友…。あの子に会いたいと…、


 プレスは金色の長剣を構えた。刀身から金色の魔力が溢れ出し、ティアの魔力と共にキャロルを…、いやこの空間全てを覆いつくす。


「ファング!!もういい!!もう大丈夫だ!!ジルハイドはこのおれが確実に始末した!!思い出せ!!自らを!!キャロルと過ごしたその日々を!!」


 エーデルハイドとブライは溢れ出る光の奔流から必死に目を庇いながらその様子を見ていた。二人はプレスがもう一度、その手にある長剣を振るう姿を見た気がした…。


 そして…。




 ワン!!


 何とも可愛らしい鳴き声と共に溢れんばかりに部屋を覆いつくしていた光が一瞬にして全て消える。そうしてその場に居た者の目に飛び込んできたのは、真っ白な子供の魔狼がキャロラインの胸に飛び込んで盛んに甘える姿であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る