第197話 天を斬る
「グ、グ、ギ、ギ、ギ、ゲ、ゲ、ゲ、ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ…」
文字通り暗雲が立ち込めるロヨラ邸の門前でティアの結界に覆われた異形の怪物が異音を発しながら震え始める。
「これは…」
努めて冷静に状況を見守っていたティアがドラゴンの姿のままその怪物の様子に声を上げる。すると震え始めた怪物の液状だった忌まわしい姿の端々にひびが入り始めた。その隙間から金色と赤紫色の光が漏れ始める。結界内で怪物がのた打ち回る。
「この魔力は主殿の…?」
先程まで全く感じなかったプレスの魔力。そして感じ取った魔力の波動は増大を続けている。ティアの視線の先には既にその存在を辛うじて留めているに過ぎない異形の怪物だったものがある。ティアの脳裏に一瞬にして辺り一面が灰燼に帰してしまう最悪の光景が浮かんだ。
「こ、これはきっとやりすぎだぞ!!」
そう口走ると同時に魔力を行使し、金色と赤紫色の光を溢れ出しながら狂ったようにのた打ち回る怪物を結界ごと分厚い曇に覆われる空高くへと舞い上げる。
「間に合ってくれ…」
ティアがかつてない程の全力で上昇させた怪物と結界が遥か上空に浮かぶ厚い雲に到達しようとしたその時、
「『これがおれの全力だ…』」
その言葉をティアは確かに聞いたような気がした。
金色の長剣を大上段へと構えたプレスがその呟きと共にその剣を振り下ろす。
「光が全てを飲み込んだ…」
その光景を目の当たりにした住民は皆声を揃えてそう答えた…。
凄まじい爆音と金色と赤紫色の閃光が世界の全てを覆いつくす。閃光が収まった後、恐る恐る見上げた視界へと飛び込んできた空の光景にティアは息を呑む。空一面を覆っていた分厚い雲は跡形もなく吹き飛ばされ一面の晴天がそこにあった。結界など影も形も残っていない。そして…、
「空が…、斬られている…?」
思わずティアが呟く。真っ青な大空の頂点にある太陽、その太陽のある空の光景、見渡す限りその全て…、その空間が…、天空が太陽を含め真っ二つに斬り裂かれ景観にズレが生じていた。呆然としたまま見上げていると斬り裂かれた景観は徐々に本来の姿を取り戻し、いつもの見慣れた空が戻ってくる。
「…………」
言葉が出ないティアであった。
「
背後から聞きなれた声が聞こえてくる。思わず振り向くと傍らの木箱に長剣を収めたプレスが立っていた。
「心配かけたね、ティア。それにしても慟哭の銀鎖なんて…。やっぱり教団の関係者だったのか…、それにあの怪物は流石にちょっとびっくりしたよ…」
「主殿!」
思わず人の姿に戻ったティアが駆け寄りプレスへと抱き着いた。
「!!!」
「主殿!!無事でよかった!!しかしこれはさすがにやりすぎ…」
「ティア!!服!!服を着て!!」
大慌てでプレスはマジックボックスからティアの衣服を取り出すのであった。
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