第199話 プレスが語る物語
「シロちゃん!シロちゃん!レイノルズ様!シロちゃんです!!」
キャロラインは真っ白な子供の魔狼を抱きしめながら顔を上げてプレスを見る。そんなキャロラインにプレスは優しい視線を向けた。
「誓いが果たせてよかったよ…。そしてもう一つ…」
「?」
首を傾げるキャロラインを視線の端に捉えながら踵を返したプレスは金色の長剣を携えたままキャロルの母であるエーデルハイド=ロヨラの元へと歩み寄り、目にも止まらぬ速さでプレスが金色の長剣を振った。
キン!!
乾いた金属音が部屋に響く。
「こんな魔道具はもう必要ない…。さあ、キャロルのところへ…」
見るとエーデルハイドが装着していた解除不能の腕輪が見事なまでに斬り割られていた。簡単に説明していたとはいえ、目の前の光景に呆然としていたエーデルハイドは涙を浮かべながらプレスへと一礼しキャロラインの元へと走り寄り、しっかりと抱きしめた。
プレスは胸元から一枚の紙を取り出す。その手に持っていた剣を木箱に納め、蓋を閉じ、側面に紙を押し付け唱えた。
「
光が消える。執事のブライがプレスへ感謝の意を示す。
「終わったのですね…」
「ああ。もうこの家を脅かす者は存在しない…。ただ後始末はちょっと面倒かな…。神国に掛け合って領主をロヨラ家に戻してもらい、代官かな…、執政者を派遣してもらおうと思う。今回は団長であることを使ったからね…。ギルドを通して神国に連絡を取るよ」
「何から何まで…。心より感謝します」
そのブライの言葉を聞いたのかエーデルハイドが立ち上がる。
「レイノルズ様…。感謝の言葉もありません。ですが…、あの…、キャロルの障壁消してファングを…、シロを見つけると伺っていましたが…。一体、何が起こっていたのでしょうか…?レイノルズ様は我らに起こった出来事の全貌をお知りになられたのですか?そうであれば…、もし差し支えなければ私どもにも真実を教えて頂くことは可能でしょうか…?」
エーデルハイドと視線を合わせたプレスは語り出す。
「真相はさっきの魔石のようなものに記憶されていたよ…。あれは『白狼の咢』のダンジョンコアから斬り取ったシロの化身だよ。四年前…、シロを探していたキャロルは今は『白狼の咢』があるあの場所まで行った、そこで魔物に襲われたんだ…」
『えっ?』とキャロルが息を呑むのが聞こえる。
「魔物に…?ですがあの時、この子にそのような傷は…」
シロを胸に抱いたキャロラインを抱き寄せながらエーデルハイドはそう話す。
「魔物に襲われていたキャロルを助けたのも傷を癒したのもシロだ…」
「シロちゃんが…?」
キャロルは抱いている魔狼を見る。魔狼は嬉しそうに甘えている。
「シロは致命傷を負いながらも魔物を撃退した。だがキャロルもまた大怪我を負ってしまっていた…」
その場に居る全員が押し黙る。ティアが視線をプレスへと投げかけたが…、主の想いを理解したのか何も言おうとはしなかった。
「しかし、シロはその命の灯火が尽きようとしてもなお、キャロルを護ろうとしたんだ…。理由も理論も分からないが…、
「シロちゃんの意志…?」
そう呟くキャロル。
「最初からおかしいと思ったんだ…。呪いにしては敵意や悪意を全く感じなかった。ティアも何かから遠ざけるような意思を感じ取っていたしね…」
そう言ってプレスはキャロルの頭を撫でる。
「あの障壁は呪いなんかじゃない。シロが君を護るために命懸けで張った強力な守りの障壁だったんだ…。ただ魔力が強すぎたのと意思の疎通が図れないことでちょっと大変な障壁になっていたけどね…」
「シロちゃん…。私を護ってくれていたんだ。ずっと…、ずっと側にいてくれたんだ…」
涙を流すキャロルの頬をシロが軽く舐める。
「さてと…。そんな感じでちょっかいを出してきていたジルハイドもおれが断罪したし、もう何の憂いもないと思うよ?」
そう言うプレスにエーデルハイドとブライは黙って頭を下げる。
「それとね…、ふふふ…」
プレスが話を続け、悪戯っぽく笑う。その様子に首を傾げる一同。
「おい!ファング!いつまで子犬のフリをしている?」
「バレてました?それと犬じゃなくて狼です!」
皆の耳に可愛らしい声が届く。
「シロちゃん!?」
キャロルの驚きの声が離れの一室に響くのだった。
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