第164話 再会

 真紅の魔力を纏い一条の紅い閃光となったミケがプレスへと迫る。


「だーんーちょおおおおおおお!!!」


 ティアを片手で抱き寄せていたプレスは素晴らしい身のこなしで突っ込んできた紅い魔力の塊を躱す。


「へ?」


 そんな言葉を残したミケは後方のテーブルや椅子、先程まで依頼が貼ってあった掲示板を巻き込みながら盛大に壁へと激突した。もうもうと埃が舞い上がり瓦礫の山が出来上がる。


 他の冒険者が巻き込まれなかったのは運がよかった。

 ホールにいた冒険者全員が固まる。


「ふん!」


 気合の声と同時に瓦礫の山が吹っ飛びビキニアーマーの上からローブを纏ったミケが姿を現す。


「酷くない?団長!?せーっかくの感動の再会なのに!?ここはあたいを抱きしめて『久しぶりだね…、ミケ?寂しい思いをさせて悪かった…』とか耳元で囁くような場面じゃないの!?」


「うりゃ!」

「ギャン!」


 ティアを降して素早く移動したプレスがミケの頭に手刀チョップを落とし、頭を抱えてミケが蹲る。


「ど阿呆!あんなもんを受け止められる訳がないだろう?全身が飛び散って時代を先取りした前衛的なオブジェになるところだっただろうが!」


「うううううう…」


「それにどうするんだ?この状況?」


 人外ともいえるミケが全力を出した余波で床はえぐれ壁は穴が開く寸前だ。ホールに備え付けられていた椅子やテーブルや掲示板は瓦礫の山に変わっている。


「す、すみましぇん…」


 可愛い耳をペタんとねかしてしょんぼりするミケ。


「ま、久しぶりに会えたことは嬉しいけどね…」


 その言葉にミケの表情がぱぁっと明るくなる。


わたくしが後で復元しますわ。団長!お久しぶりです…」


 そう言いながら近づいてきたのはサラである。後ろにはマテウスとフロイツェンもいた。二階にはマリアとアーリアの姿も見える。


「サラ…、君もいたんだね。本当に久しぶりだ。元気そうで何より。そうか…、君たちが他の小規模ダンジョンに潜ったんだね?」


 二人は肯定の意を示す。それを確認したプレスは宰相とギルドマスターへと視線を移す。


「マテウスさん、フロイツェンさん、連絡が届いていると思うけど依頼はきちんと達成したよ」


「レイノルズ殿。この国を預かる一人として心より感謝申し上げます」


 マテウスがそう答えた。


「依頼を達成しただけだよ。それとね…、ちょっと報告したいことがあるからこれから時間をもらえる?なんでここにミケとサラがいるかも聞きたいしね…。それとティアに二人を紹介しないと…」


「畏まりました。では会議室へ…」


 ギルドマスターのフロイツェンがそう言って皆を

 会議室へと誘う。


「なぁ!あの冒険者何者だ?」

「さっき団長って呼ばれて…」

「聖印騎士団の分隊長に手刀チョップ?」

「団長…?」

「さっきC級の冒険者って…」

「あのガボットを投げ飛ばすC級なんているのか?」

「もしかして団長って…」

「見ろよ…。美人が三人も…付き従ってる?」

「爆発しろ!」

「だからさ…、だんちょ…」

「さっきからうるさいぞ!それは考えちゃダメなやつだ…」


 正気に戻った冒険者たちが口々に言い合う。皆、薄々気付いていた。巨漢のガボットを苦もなく投げ飛ばした力…、聖印騎士団の分隊長が団長と呼ぶ…。


 それに気付いたミケがニヤリと笑う。二階の会議室へと上る階段の途中で振り向いた。


「バカ…、こらミケ…」


 プレスの制止も間に合わずミケが声を上げる。


「そのとーり!!この方はプレストン=レイノルズ様!!我らレーヴェ神国聖印騎士団の騎士団長であり、史上最年少で騎士団長になられて以降、数々の武勲を挙げ、その長い歴史において歴代最強と謳われたお方だ!!」


 ドヤ顔のミケ。


 ギルドが静寂に包まれる。


 ホールの冒険者、受付嬢、事務員、マリアやアーリアまでが固まる。


 目眩を覚え額を押さえて項垂れたのはプレスとマテウスとフロイツェン。


 ティアとサラは落ち着いている。


「「「「えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」」


 驚愕の絶叫を背に受けながら一行は会議室へと向かう。その間、ドヤ顔のミケの頭へ本日二度めの手刀チョップが振り下されるのだった。

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