第158話 西の小規模ダンジョンへ
ここは港湾国家カシーラスの首都ヴァテントールから西へ延びる街道の一つ。月は雲に隠され未だ夜は深い。太陽が昇るためにはあと数刻の時が必要だろう。街中であれば魔道具による街灯があるのだが街道に出てしまえばそのような設備はない。街道は闇に閉ざされており、魔物や盗賊に襲われる可能性が高まることから、夜の移動は危険が大きいとされていた。そんな真っ暗な街道を疾走する二つの影があった。
「主殿?我が竜の姿で飛んだ方が早いのではないか?」
そう問いかけるのはティアである。
「そうなんだけどね…。気になることがあったから…」
そう答えるのはプレス。長剣を差し、背中の木箱もいつもどおりだが両手は地図で塞がっている。小さな
二人はそんな夜の闇を全く苦にすることなく移動を続ける。二人は宰相のマテウスとギルドマスターのフロイツェンから依頼を受けて西の小規模ダンジョンを目指していた。
「魔狼に襲われた報告のことだろうか?」
ティアの問いに肯定の様子を見せるプレス。マテウスとフロイツェンからの依頼事項は二つ。一つはダンジョン内に残ったS級冒険者パーティ『翡翠の矢』のリーダーであるカティアの救出。もう一つはダンジョンでの異常の除去である。
プレス達がヴァテントゥールのギルドを出発するまでの僅かな間にさらなる報告がギルドへと届き、ある程度の状況が明らかになっていた。現場にいた冒険者達が担ぎ込まれたダンジョン近くのギルドが手に入る可能な限りの情報を冒険者達から聞き取り魔導通信で送ってくれたのである。
それによるとS級冒険者の二つのパーティはダンジョン内で凶悪化した魔物の群れから襲撃を受けたという。ヒドラや巨大なゴーレムもいたという証言もあるが確証は無いとのことだ。魔物の数は非常に多くあっという間に囲まれてしまい撤退を決定することも出来ないままに戦闘が始まった。その戦闘では『風の狼』のリーダーであるヴォルフが先頭で退路を切り開き、防御系の魔法が得意だったカティアが殿を務めたという。最終的にカティアの判断と指示で彼女自身が囮となることで魔物を別の通路へと誘導、他のメンバーはその隙をついて脱出したという。
軽傷を負ったS級冒険者パーティは状況をギルドヘ報告しすぐにでもカティア救出のための行動を取ろうとした。しかしその矢先に想定外の事態が発生したのである。その場にいたのは脱出したS級冒険者パーティメンバー、補佐として同行していたA級冒険者パーティ、先行して到着していた近隣のギルドから応援として派遣された冒険者の合計二十数名。彼らに魔狼の群れが襲い掛かったと言うのだ。非常に強力な個体が集まった群れだったらしく、二十数名の冒険者は多数の重傷者を出しながら近隣の街への撤退を余儀なくされた。死者が出なかったのは追撃がなかったからであり、これは運がよかった以外のなにものでもないと報告では結ばれていた。
「もし向かっているダンジョンがこの前と同じ状態だったら…。あんな可視化できるほどの魔力の霧を噴き出しているダンジョン周辺に魔狼なんて集まらない」
「その通りだ、主殿。我は護衛としてマリア殿の側にいたが周辺に魔物の気配はなかったぞ」
「ということは…ね?」
「何者かに操られた…か」
「そう…。何者かが監視していた可能性がある。当然、ロクな奴ではないけどね…。もしまだいるなら捕えたいと思う…。ティアの竜の姿を見ると逃げるかもしれないからね。時間は掛かるけど走る方を選んだ…。カティアさんには悪いけどS級冒険者パーティのリーダーを務める程の冒険者だからね。ダンジョン内に身を隠して何とか凌いでいるはずだ…」
そう話しながらも人外の速度で疾走する二つの影は数刻後には異変が起きたダンジョンの入り口へと到着した。東の空は明るくなってきているが日の出にはもう少しの時が必要である。
「よし…。おれが潜る。ティアには周囲を見張って…」
「主殿…」
二人は視線を合わせる。周囲に夥しい程の魔物の気配が現れたのだ。振り返ると多数の魔狼が二人を取り囲む。
「隠蔽?いやそんな気配はなかった。召喚術のような魔力の動きもない…。収納魔法の応用かな…」
「うむ…。そのようなものだろうな…」
「……えっと……
プレスの放った青白い
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