第159話 暗躍する者と挑発する冒険者
夜の闇でその容姿は確認できない中、声だけが響く。
「スゴイ!キミも冒険者?さっきの連中はボクの存在に気付くことさえ出来なかった!」
男のようだ。金属を擦り合わるような甲高く不快な声が届いてくる。プレスは質問には答えず無言で声の聞こえた先を見据えている。すると雲間から月が顔を出し月光によってその男のヘラヘラと笑う姿が浮かび上がる。
「こんなところでもか…」
吐き捨てるようにプレスが呟き項垂れる。しかしそれと同時に幾つもの事柄がパズルのように繋がっていくのを感じた。
現れたのは細身で人族の男である。体形加え目も糸のように細く、捉えどころのない印象だ。月光に照らされる金髪が目を引いたがそれ以上にプレスの目に飛び込んできたのは黒衣のローブである。金のラインが入った『禍々しい』雰囲気を放つそれをプレスはよく知っていた。
「クレティアス教の司祭が何をしている?この国に居場所などない筈だが?」
港湾国家カシーラスではかつての戦乱の時代にガーランド帝国と敵対していた。当然、ガーランド帝国の同盟国でありクレティアス教の総本山であるフレデリカ聖教国とも対立しておりその関係から、港湾国家カシーラスにおいてクレティアス教は禁止されてはいないが実際には認められていない宗教と言えた。
「ふーん。一目でボクが司祭って分かるってことは信者君?いやいや、信者君はそんな言い方はしない…。じゃあ、神の教えを理解しないゴミか?ボクは忙しいんだ!ほかも見て回らないといけないし…。さっさと狼にコロサレテクレル?」
そう言いながらもヘラヘラと薄気味の悪い笑みを浮かべている。すると包囲していた狼たちが少しずつ動き始めた。
「主殿をゴミだと…。貴様ぁ…。この先…、この世に存在し続けることができると思っているのか…?」
怒りに燃えてそう言うティアの頭に手を置いて落ち着かせたプレスが応える。
「悪いがこのダンジョンコアを侵食している存在を滅ぼすことに忙しい。相手をしてる暇はないんだが?」
そう言われて男が纏っている雰囲気が一変する。
「!?ゴミのような冒険者の分際で何を知っている!?」
こちらを睨みつける男。プレスは怒り心頭のティアを宥めつつ司祭の問いに素直に答えることにした。
「数日前、ヴァテントゥールの北西ある小規模ダンジョンでここと同じ状況を確認した。ちなみにダンジョンに潜ってしっかりと異常状態は回復させたから心配はいらない!強い魔物もいなかったしな…。安心しろ!ここもすぐ元に戻してやる!確かヴァテントゥールの北にある小規模ダンジョン二つも同じ状態らしいが、それらも昨晩には元に戻ってたと考えられている。ここが最後だ!」
マテウスとフロイツェンはミケとサラのことをプレスに話していない。信頼できる者に依頼したとだけプレスに伝えていた。時間がなかったこともありプレスはそれ以上に興味を持たなかったのである。
プレスの言葉を聞いて男の顔が驚きの表情を作り出す。それを見逃さないプレスはカマかけと挑発を忘れない。組みあがったパズルを披露する。
「そうか!お前達の仕業か!なら話が分かり易くて助かる…。お前達のような愚か者の考えることはよく分かる…。大方、小規模ダンジョンのコアに異常を発生させてヴァテントゥール周辺に強力な魔物を溢れさせる。フレデリカ聖教国が表に出ることはない…。魔物への対策でヴァテントゥールが混乱に陥った時、タイミングよくガーランド帝国の軍艦が現れて解決策があるとでも提案するのかな?それには見返りが必要で…」
芝居がかったプレスは怒りで震えている司祭を全く気にしないように大袈裟な動きを付けて全身で表現する。
「ヴァテントゥールを狙ったということは反対側のリドカルが目当てかな?あそこの将来性は大きい…。リドカルを共同統治しよう!なんて提案をするつもりだろうか?あ!ついでに『リドカルも既に我が手にある!』なんて言う?『一声かければリヴァイアサンがリドカルを襲うぞ!』って。どうだ?結構いい線を言ってるだろう?」
プレスの得意げな顔を見て歯噛みする男。男が両手に魔力を宿す。
「知りすぎているようだ…。ココデシンデモラウ!!」
そう絞り出す司祭を鋭い視線で見据えプレスが問う。
「一つ教えろ!ダンジョンコアを侵食している魔物はどこで手に入れた?漆黒の魔力を使う者どもと貴様ら聖教国は繋がっているのか!?」
「…」
無言の司祭にプレスが踵を返す。
「どうせお前達からは何も聞き出せないことは分かっていた。…ダンジョンに潜る…。お前の相手をしている暇はない!」
そう言ってプレスはティアを見た。
「ティア!君に任せるよ。好きにしろ。ただし絶対にアイツを逃がすな!!」
そう言われたティアは満面の笑みを浮かべる。
「任されたぞ!主殿!」
ティアに笑顔を返しプレスはダンジョンへと飛び込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます