第157話 託される希望

「フロイツェン!後悔は後だ!それに小規模ダンジョンの探索にS級冒険者パーティ二つを送り込むことを見通しが甘いとは言わない。絶対に言わないぞ!それよりも何か手を!手を考えるんだ!!」


 そこへ一人の受付嬢が会議室へと入室する。


「マテウス様。御息女のマリア様が到着されました。騎士のアーリア様、冒険者のプレストンさんとティアさんを伴われております。お会いになられますか?」


 マテウスとフロイツェンは顔を上げ視線を交わす。


「すぐにここへ連れてきてほしい。全員だ!小規模ダンジョンの異常について詳細を知りたい!」


 残念ながら現時点においてできることは多くはない。そう考えたギルドマスターと宰相は少しでも確度の高い情報を得るために今できる最低限の行動をとった。ほんの少しの時間が経過し会議室のドアが開く。


「父上、ご心配をおかけしましたが無事到着することができました」


 入室してそう挨拶したのは宰相の娘であるマリア=フランドル。その傍らで騎士であるアーリア=ロクサーヌが跪いている。


「マリア!無事で何よりだ!アーリアも楽にするとよい。到着したばかりで悪いが話がある。そなたの命でアーリアがもたらしてくれた情報から小規模ダンジョンへの探索を行うことにしたのだが急を要する事態が発生した。今の我々にできることは少ないがそれでも情報はできるだけ集めたい。そなたが連れてきた冒険者殿は?」


 そう言われてマリアは自分とアーリアだけが入室したことに気付く。ドアを開けて廊下に出るとプレスとティアが立っていた。


「プレス様?ティア様?どうして入室されないのですか?」


「い、いやぁ…、御父上との再会を邪魔しちゃダメかなって…」

「?」


 プレスの歯切れが悪い。横にいるティアも不思議そうな表情をする。


「父上がお会いしたいそうです。さあ、どうぞ!」


「そ、そう?」


 そう言われてプレスはおずおずと入室する。この国の宰相と冒険者ギルドマスターが出迎えた。


「無理な依頼をしたことは私が詫びよう!ようこそヴァテントゥールへ…、へ、へ、へ…」

「君がプレストンか…、か、か、か…」


 二人の様子がおかしい。


「や、やあ!マテウスさんにフロイツェンさん…。おひさしぶり!」


 笑みを浮かべて挨拶するプレス。


「「レイノルズ殿??」」


 二人の言葉が重なる。そして立ったまま二人は動かなくなった。


「父上?フロイツェン様?」

「マテウス様?」


 マリアとアーリアが話しかけるが二人は固まったままだ。マリア、アーリア、その場にいた受付嬢達が慌て始める。


「レイノルズ殿?主殿?レイノルズとは…?」


 目の前の光景を気にすることなく問いかけるティアの言葉にプレスは頭を掻きながら答える。


「言ってなかったよね…。プレストン=レイノルズ…。おれの名前だよ…。レイノルズの方は冒険者になってから使ってなかったんだ。ほら冒険者証もね…」


 プレスの冒険者証の名前の欄にはプレストンという名前のみが書かれている。


「冒険者証に嘘は書けないけど、ある程度の範囲ならこういう自由も効くんだよね…」


「なるほど…。しかしなぜレイノルズという姓を秘密に?」


「いま固まっているこの二人はここの冒険者ギルドマスターとこの国の宰相だけど、こういった人にレイノルズって名前はそこそこ知られていてね…。会うと大体こんな感じになる…。ま、この二人は昔のおれを結構知っている方だから特にね…」


 そう言ってまだ固まっている…というか立ったまま気絶している二人を指す。


「それが嫌で?」


「ああ。一応は目立たない旅がしたかったからね。外見を変えるつもりはなかったけどプレストンって名前は親しかった連中しか知らないからいい考えだって思ったんだよね…」


 そんな風に説明していると固まっていた二人が動き出す。二人はやるべきことを見失わなかった。マテウスとフロイツェンが片膝をつき上半身を前にかがめて敬意を表する…、片膝ではあるが跪拝きはいしたと言っていいだろう。マリアやアーリア達は意味が分からないままに慌ててそれに倣う。そうしてマテウスが口を開く。


「レイノルズ殿!久方ぶりにお会いした直後にこのようなことを頼むのが無礼であることは重々承知…。だが我々には時間がない…。頼む!お頼み申す!手を貸しては頂けないだろうか?このマテウス命を懸けてお頼み申す…」


 プレスはこの二人がどれ程の傑物であったかをよく知っている。そんな二人のこの様子にそれが切実な頼みであることは容易に理解できた。


「いまのおれはC級の冒険者だから依頼を出してくれれば受けることは出来るよ?」


 いつもの調子で答えたプレス。二人の願いは一人の冒険者へ託されるのだった。

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