第151話 S級冒険者のプライド
「フロイツェンの親爺さん!状況と依頼内容は理解したつもりだ!だがこの割り振りはどういうことだ!?」
そう声を荒げたのは港湾国家カシーラスを中心に活躍している数少ないS級冒険者パーティ『風の狼』のリーダーであるヴォルフ。茶色い短髪の大男で顔の右半分に大きな傷跡が残っている。まだ血気盛んな二十代半ばであるがその実力は本物と言われていた。ドラゴンの素材がふんだんに使われた業物の大剣を愛用し凄まじい勢いで次々と魔物を討伐する姿は、他の冒険者から獲物を屠る巨大な魔狼ようだと例えられる凄腕の剣士である。
「そうね!私も納得できる説明がほしいわ!」
ヴォルフの言葉に同調したのは尖った耳と美しい翡翠色の長髪を湛えたエルフ族の女性。彼女の名はカティア。大陸西部を中心に活躍するS級冒険者パーティ『翡翠の矢』のリーダーである。
背後に控える彼らのパーティメンバーも同じ意見らしい。
話は少しだけ遡る…。
宰相家の騎士アーリア=ロクサーヌの報告を受けたギルドマスターのフロイツェンはその日の内にヴァテントゥール近郊で活動しているS級冒険者パーティを探すよう指示を出した。
それによって翌日、ギルドの大会議室へと集められたのが、たまたま休暇でヴァテントゥールにいた『風の狼』と物資の調達と観光を兼ねてヴァテントゥールを訪れていた『翡翠の矢』である。
この大会議室にはS級冒険者のパーティに加え、ギルドマスターのフロイツェン、この国の宰相であるマテウス、レーヴェ神国聖印騎士団の分隊長であるミケランジェロとサラ、あと三つのA級冒険者パーティが集められた。
ギルドマスターのフロイツェンから行われた状況の説明と三箇所の小規模ダンジョンの調査を行い異常があればそれを取り除くという依頼内容の提示までは何の問題もなかった。
しかし、その次の説明にS級冒険者パーティは黙っていられなかった。
フロイツェンはA級冒険者パーティを案内と補給役につけるので、それぞれの探索するダンジョンに向かって欲しいと言って地図を広げた。
そこには誰がどのダンジョンに向かうのかが書き込まれていたのだが、『風の狼』と『翡翠の矢』は共同で一つのダンジョンを担当するように書かれていた。残りの二つはミケランジェロとサラと名乗った女性がそれぞれ
これでは最強と謳われるS級冒険者パーティが彼女達のどちらか一人以下の実力しかないと言われているに等しい。
そこで出たのが冒頭の発言であった。
「ヴォルフ!これが現時点で最良の布陣なのは事実だ…。なぜならこのお二人はレーヴェ神国聖印騎士団で分隊長を務めておられる。今回特別にご助力頂くのだ。お前も冒険者ならその意味が分かるだろう?」
フロイツェンの言葉を聞いてS級パーティのメンバー達は騒つく。
「レーヴェの騎士が最強って話は聞いている。だけどよ…」
簡単に引き下がらないのはS級冒険者としてのプライドがあるからかも知れない。
「要はあたいらがあんた達より強いってことが分かれば納得だろ?簡単じゃん!ね?サラ?」
なんでもないといった様子で口を開いたのはミケランジェロと名乗った燃えるような紅い髪の
「ミケさんの言っていることは正しいと思うのですが…。お許しが得られるかどうか…」
そう穏やかに答えるのはサラと名乗った銀髪の美女。
「えー!こんな話し合い面倒だよ!あたい模擬戦やりたい!模擬戦!ね?二人とも、いいでしょ?」
そう言われてギルドマスターと宰相の顔色が真っ青になり額から脂汗が噴き出す。
「ハ、ハ、ハーティア殿!そ、それは…。それだけは…」
「ハ、ハーティア殿…。どうか…、どうかここは私に免じて穏便に…」
二人はその様子を想像した恐怖で言葉を続けられない。
「なあ!あんたはどう思う?あたいと模擬戦やってみないか?」
ミケはそう言ってヴォルフを見る。
「ああ!俺好みの解決法だ!」
ニヤリと笑うヴォルフ。後に彼はこの決断を死ぬほど後悔することになる。
「よし!決定!」
ミケの声を合図として一同はギルドマスターと宰相が止めるのも聞かずにギルドに併設された練武場へと移動するのであった。
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