第150話 魔導通信による報告

「では通信開始!」


 そう言ったのはフロイツェン。ここはギルドの会議室。ヴァテントゥールの冒険者ギルドでは魔導通信の音声と映像を会議室で受ける設備があった。


 会議室にいるのはギルドマスターのフロイツェン、この国の宰相であるマテウス、そしてレーヴェ神国聖印騎士団の分隊長であるミケランジェロとサラ、さらには書紀役を任された受付嬢の五人である。


 部外者のミケランジェロとサラだが宰相のマテウスが同席を願い二人も了承した。もし危険な魔物やスタンピードの発生の連絡であった場合、この二人に助力を願うためだ。


 そして映像が映し出される。


「私はアーリア=ロクサーヌ。フランドル家の騎士で副隊長を務める者だ。宰相マテウス様の御息女マリア様の命によりこの魔導通信を使わせてもらう」


「アーリアではないか!」


 そう声を上げたのは宰相のマテウス。


「マ、マテウス様…。ギルドにいらっしゃるとは知らずご無礼を…」


「そんなことは気にせずともよい!何があったのだ!?マリアは!?マリアは無事なのか!?」


「は!ダンジョン探索中に問題が起こりましたがマリア様も我等も全員無事です。ボウエンが手傷を負いましたが冒険者殿の助力とマリア様の回復魔法で命に別状はございません」


 そこまで聞いて安心したのかマテウスは取り乱した自分に気付く。


「フロイツェン…。すまぬ。娘のことで動揺してしまった…」


「気にするな!お前も人の親ということだ。それでロクサーヌ殿!魔導通信での報告が必要とはかなりの事態であると推察する。詳細の報告を頼む」


 アーリアは小規模ダンジョンに異常が起こり、魔物が凶暴化した上にギガントミノタウロスやハイドラといったS級冒険者パーティであっても対応が困難な魔物までもが発生したことを報告する。さらにこの事態はダンジョンコアに茨状の魔物が絡みついたことが原因と推察され、これが放置された場合、危険な魔物がダンジョンの外に溢れることが予想されると報告し、この事態が人為的に起こされた可能性があることも報告した。


「そのため他の三箇所の小規模ダンジョンについても異常の有無を確認するべき、というのがダンジョンの異常を取り除いた冒険者殿からの報告と提案です。それを聞いたマリア様が魔導通信による報告の必要があると判断されまして、私が名代として近くのギルドに赴きました」


 報告を聞いたフロイツェンの顔色が悪い。


「ギガントミノタウロスやハイドラが小規模ダンジョンに?そしてその報告をした冒険者というのがそれらを斃したというのか?しかもダンジョンコアに干渉している魔物を排除したと…?」


 そう呟きながら画面上のアーリアに向けて問いかける。


「その冒険者の階級と名前は?」


「C級冒険者のプレストン殿です」


 その言葉にミケランジェロとサラが視線を合わせる。


「C級の冒険者にそのようなことが出来る訳がない…。そんな荒唐無稽な話を信じろと?」


 呆れたように話すフロイツェン。


「マテウス様…」


 アーリアの言葉にマテウスが応え口を開く。


「フロイツェン!これから話すことは極秘だ。外部には漏らすな。お二人も内密にお願いします」


 そう言ってマテウスはC級冒険者プレストンをヴァテントゥールへ連れてこようとした経緯を説明する。


「リヴァイアサンを退けた冒険者?そんな馬鹿な!?」


「事実だ!リドカルのギルドでは益体も無い噂話として誰も信じなかったようだがな…。この報告には信憑性があると私は判断する。調査は行うぞ!これは宰相としての決断だ!」


 呆然としているフロイツェンを余所にアーリアに問いかける者がいた。


「ロクサーヌ様!わたくしはサラ=スターシーカー。レーヴェ神国聖印騎士団で五番隊隊長を務めている者です」


「おお!武勇は聞き及んでいます!お話が出来て光栄です!」


「お伺いしたいのですが…、その…、唐突で申し訳ありません。そのプレストン様という冒険者の方は黒髪黒目のお方でしょうか?」


「え…?ええ…、この大陸では珍しいので私も印象に残っていますが…、それが何か…?」


 それを聞いたサラはマテウスに向き直る。


「マテウス様!わたくしたちが探している方はこのプレストン様かもしれません。彼をこのギルドにお招きください」


「そ、それは構わぬが…一体…」


「その代わりと言っては何ですが、今回の調査に関してわたくしとミケさんが全力でご助力させて頂きます!いいですね?ミケさん?」


「もちろんだよ!サラ!」


 凶悪な魔物を相手にするかもしれない状況で、この二人から助力を得られるのは喜ばしいことではある。しかし凄腕だと思われるプレストンという冒険者とレーヴェ神国にどのような関係があるというのか…。宰相は困惑の表情を隠すかのように額の汗を拭うのだった。

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