第146話 ダンジョンのコア

天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」


 プレスがそう唱えた瞬間、木箱の上方が開き金色に光り輝く長剣が飛び出した。柄を握ると本来は夜のような漆黒を湛えるプレスの瞳が金色に輝く。


「「「ギィイイ!!」」」


 その圧倒的な力の奔流を感じたのかハイドラの頭達が怯んだように唸る。


「首の数は…、二十五…か…。ハイドラの斃し方は大きく二つ…。一息に消滅させるか、同時に全ての首を飛ばす…だったよね…」


 プレスが金色の長剣を構える…、とハイドラの首の一つが毒のブレスを放った。


「おっと!!」


 大きく距離を取って躱すプレス。プレスが居た筈だった地面は真っ黒に変色した上に液状化し溶岩のようにボコボコとガスが沸き上がる。


「猛毒に加えて腐食の効果を含んでいるか…それもかなりヤバいやつだ…、けどね!」


 神速で移動したプレスは猛毒のブレスを吐いた頭部へと接近しその首を斬り飛ばす。頭部を失った首は暴れるが先ほどの火矢フレイムアローの時とは違い再生されない。ハイドラの頭達に若干の動揺が見られた…、その隙を見逃さず飛び掛かるプレス。


 慌てた残り全ての頭部が飛び上がったプレス目掛けて猛毒のブレスを放った。大きなドーム状の空間全体に猛毒が煙のように充満し天井、壁、地面の全てがドロドロに溶けその全てが沸騰したようにガスを発生させる。


 しかしそんな猛毒の煙と液体で紫色に染まる空間を切り裂くように金色の光がハイドラの前に現れる。プレスが飛び掛かった勢いそのままにハイドラに肉薄していたのだ。


「そんな攻撃は効かない…。お前に恨みはないけど…」


 そう言ってプレスは金色の剣を振るう。プレスが着地したとき二十四残っていた首は全て斬り飛ばされていた。


「「「「ギィイイイイイイイ!!」」」」


 斬り飛ばされてなお頭部が断末魔の雄叫びを上げる。しかしハイドラの四足歩行を支える胴体は既に動きを止めている。プレスが見据えるとハイドラの胴体は真っ二つとなった。不思議と血が一滴も出ていない。くっつければそのまま動き出しそうな程の見事な切り口である。


「浄化…、できるかな…?」


 プレスがそう言いながら長剣を掲げた。すると光の粒子が空間に現れてプレスの長剣に集まり始める。そうして眼が眩むほどの光の奔流が生まれた。プレスはその剣を猛毒に汚染された空間に向かって振うと光は全てを包み込むように空間へと溢れた。すると光に触れたことで紫色の毒成分が中和されるのか空間を埋め尽くしていた毒の霧と液体が消滅してゆく。


「お、大丈夫みたいだね…。次は…、永久凍土の棺フリージングコフィン!」


 そう唱えると生み出された冷気で液状化した天井、壁、地面が一様に固まる。


「ふう…。これで大丈夫かな?」


 そうしてプレスは胸元から一枚の紙を取り出す。先程と同様の方法で魔法陣を書き、手に持っていた剣を木箱に納める。蓋を閉じ、側面に紙を押し付け唱えた。


天地創造オーバーライド封呪ロック!」


 途端に光が消える。その後には凍り付いたドーム状の空間と巨大なハイドラの死体が残された。


「討伐完了っと…。さてと…ダンジョンコアはこのフロアにあると思うんだけどね…」


 口の中で呟きながらプレスはハイドラが控えていた場所の奥を探索する。


 リィ…イイィ…イィィィィィィィィィィ。


 ドーム状だった空間の奥にはもう一本の通路がありプレスの耳はその奥から聞こえる鈴のような音色を捉えた。魔力の霧が噴き出していることを確認する。


「見つけた…」


 通路の奥でプレスが見つけたのは漆黒の茨のようなもので大半を絡めとられながらも、それを排除するかのように魔力の霧を生み出している七色に輝く球体…、このダンジョンの心臓部であるダンジョンコアだった。

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