第145話 遭遇!ハイドラ!!

「さてと…小規模ダンジョンって言ってたから次の層が最後だといいんだけど…」


 そう呟きながら第九階層にいるプレスは階段を下りる。


 アーリア達を見つけ、彼女に襲い掛かっていたミノタウロスを瞬殺したプレスは即座に永久凍土の棺フリージングコフィンを発動し周囲の魔物を無力化しボーエンの応急処置を行って彼等を伴い脱出した。


 ボーエンを完治させることもできたのだが、そのボーエンが『マリア様の魔法を!』と応急処置を行うプレスへ懇願したのでボーエンの意思とマリアの顔を立てるためにプレスは応急処置に留めたのである。


 重症を負ったボーエンを見たマリアは顔を青ざめさせながらも回復魔法でボーエンを治療した。その回復魔法はプレスの目から見ても中々に卓越したものであった。


 ボーエンの回復を確認した後、プレスは再び単独でダンジョンに潜ることをマリアに提案する…。このままダンジョンを放置するのは危険だからであり、自分であればこの状況をなんとかできる。それを聞いたマリアはプレスがダンジョンに潜ることを許可したのである。


 プレスはマリアの護衛としてティアを残し、再度ダンジョンへと飛び込んだ。


 現在ダンジョン内にプレス以外の人族や亜人はいない。プレスは永久凍土の棺フリージングコフィンを連発してダンジョンを探索する。目的はダンジョンコアである。


 ダンジョンにはダンジョンコアがありそれが心臓部となってダンジョンが形造られるとされている。広く知られている研究結果であり多くのダンジョンに当て嵌まる事実ではあるがダンジョンコアを実際に見た者は意外と少かった。


 今回の異常はダンジョンコアに何かが起こったためと当たりをつけたプレスはダンジョンコアを探しながら第九層まで辿り着く。ダンジョンにおけるコアの在り処については法則等は無く最下層にある物から移動を繰り返す物まで様々なためプレスは急ぐ中にも慎重に探索していた。


 そうして最下層と思われる第十層。そこはこれまでの迷路状ではなく大きなドーム状の空間になっていた。


 プレスは既に強大な魔物の気配を感じている。


「………光球ライティング………」


 プレスがそう呟くと周囲に複数の光球が生まれる。そして光球は意志を持ったかのように周囲に拡散した。魔物の姿が浮かび上がる。


「こいつはデカい…。ヒュドラ?いやこれはもうハイドラだね…。なんで第十層に?」


 ヒュドラは四足歩行の巨体に竜に似た頭部を複数持つ魔物であり厄介な毒攻撃が特長的な魔物である。ハイドラはその上位種として知られており、恐ろしさはドラゴンゾンビと同格で、極めて強力な毒攻撃と驚異の再生能力で天災級の魔物として冒険者にとっては絶望の代名詞となっていた。本来は百層以上あるダンジョンの深層に現れる魔物である。第十層に現れたこの事態は明らかな異常と言えた。ハイドラの首は二十を超えている。


火矢フレイムアロー!」


 プレスの気合い声と共に青白い火矢が十数本発現しハイドラへと襲いかかる。


 ティアを従魔としたことで魔法への制限がなくなったプレスにとってこの程度の無詠唱による多重詠唱と同時操作は容易いものとなっていた。


 プレスの火矢はいくつかの首を消炭へと変えたが、あっというまに首は再生される。


「やっぱりダメか…ダンジョン内で極大魔法を使う訳にもね…」


 そう言いながらプレスは背中の木箱を下ろす。


「ギィヤアアアアアアアアア!!!」


 ハイドラの目が怒りに染まる。


「お前も望まぬ進化をしたんだろうけどね…悪いけど通してもらうよ…」


 そう言ってプレスは懐から紙を取り出す。そして右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当てそしてプレスが唱えた。この魔物に恨みはない。だが現状を放って置けないプレスはこのハイドラを滅ぼす決断を下していた。


天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」

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