第127話 歓迎と報告

「「よくぞおいで下さいました」」


 プレスは熱烈な歓待を受けていた。ここは『南海の迷宮』の最下層と同じ空間に造られたリヴァイアサンの棲み処。天井の穴から落ちてきたプレスをリヴァイアサン達が歓迎してくれたのである。リヴァイアサン達と言ったがこの棲み処に暮らす成竜は二体であとは子竜が十体程だ。リヴァイアサンは海の魔物のバランスを調整する存在だ。そのため成竜は各地でこの程度の棲み処を作りそのバランスの維持に努めているらしい。


 穏やかな笑みを堪えながらも酒を注いでくれるのはこの棲み処の長老。長老といっても何故か今は女性の姿を成している。美しい蒼い長髪を後ろ髪にまとめ、蒼いワンピースを纏ったその淑やかな佇まいは美しい傾城と相まってこの世の者とは思えないほどの魅力を放っている。


 そしてその横に座るもう一人の女性が料理の取り分け等をしてくれる。こちらは先日大河オーティスで暴れた方の個体である。やはり女性の姿をとっており長老より幼い姿ではあるが同じ蒼い長髪を持ち美人姉妹と言えるような佇まいである。もし街でこの二人を見かけたら男たちが放ってはおかないだろう。いや…、あまりの美しさにならず者以外は声を掛けることも出来ないか…。


「それにしても驚きましたよ。まさか神々を滅するものロード・オブ・ラグナロク様があそこから落ちて来るなんて…。あの子から話は聞いていましたがまさかあの大穴を使ってこられるとは…。ふふふふふ。やはり神々を滅するものロード・オブ・ラグナロク様は破天荒な方が多いらしいですね…」


「やっぱりクリーオゥが教えてくれた方法はやばい方法だったんだ…」


 長老の話にそう呟くプレス。


 彼らリヴァイアサン達によると人の身でここに辿り着く基本的な方法は『南海の迷宮』百五十階層を踏破し、最下層にいるリヴァイアサンの霊体との戦いにおいてその力と高潔さを認められることだという。


我らリヴァイアサンの肉を所望した神々を滅するものロード・オブ・ラグナロク様をお諫めすることができる力と高潔さと伝えられています」


 とのことだった。


『それって…。その時の神々を滅するものロード・オブ・ラグナロクはかなり好戦的だったはずだから…。実際には不可能だよね…』


 そんなことを思い浮かべながら盃の酒を飲む。米から作ったという美味い酒だ。


「それにしてもクリーオゥ様とお知り合いとは…。世界は狭いものなのですね…」


 妹的な姿をした個体が楽しそうに話してくる。陸での知り合いが増えたことが嬉しいらしい。


「ああ。それにしてもなかなか酷い目にあったよ」


 プレスの言葉に長老が答える。


「それはそうです。あの穴に飛び込むなんて…。あの流れと魔力の圧では我々も無傷ではいられません。場合によっては命を落とすでしょう…」


 そう言われてプレスは大穴に飛び込んだ時を思い返す。


 クリーオゥの話では最短距離でリヴァイアサンの棲み処に行くためには第五階層の大穴に飛び込むのが一番早いとのことだった。B級冒険者を蹴散らしたプレスは躊躇することなく絶対防壁シールド・オブ・ヘリオスを球状に展開して大穴へと飛び込んだ。ほぼ垂直ではある流れに乗って数百メトル降下したところに地底湖のような場所がありそこに落ちたところまではまだよかった。次の瞬間、信じられない力でさらに下へと引きずりこまれることになったのである。


 海水と闇で満たされた広大な空間を高速で下へ下へと引きずりこまれるその感覚はプレスも未知のものであり驚きを隠せなかったが、さらに驚いたのが絶対防壁シールド・オブ・ヘリオスにヒビが入った事である。絶対防壁シールド・オブ・ヘリオスに物理的にヒビを入れることは難しい。プレスが周囲を確認すると水圧に加えて強大な魔力が空間に満たされていることに気が付いた。流石に慌てたプレスは背中の木箱からあの剣を解き放ち強力な結界を張ることで事なきを得て今いるこの空間に吐き出されたのであった。


「同じことは人族には不可能な気がするよ…」


 ぐったりしたようにそう言うと改めて、


「「大変でしたね…」」


 そうにこやかに言われて酒を勧められた。


「「「ピイ!ピイ!」」」


 酒を飲んでいるとそんな鳴き声と共に小さな海竜たちが集まってくる。


「お、お前達も食べるか?」


 そう言ってプレスは一匹の焼き魚をあげると、


「ピピィ!」


 嬉しそうに子竜は頭から焼き魚を食べていく。彼らは子供のためまだ人の姿は取れないらしい。だけどこれはこれで可愛い。プレスは全員順番に焼き魚を食べさせるのであった。


「…殿…、主殿…、主殿!」


 そうやって楽しんでいるとティアからの念話が届く。


「ティア!聞こえるかい?こちらはなんとかリヴァイアサンの棲み処に着いたよ。そちらは順調かな?」


「おお!主殿!無事でよかった!実は我に魔道具を使用しようとした男を捕縛したのだ!」


 ティアの報告にプレスは笑みを浮かべた。


「それはよかった。何か分かったかな?」


「それがどうやらマズいことになるようだ。強力な洗脳がされていたがクリーオゥ殿が詳細を確認した。手短に伝える。どうやらそちらが襲撃されるようだ!そして魔道具には我を封じた杭と同じような魔力が使われていた!!」


「何…?」


 ドゴオォォォォォォォォォン!!!


 リヴァイアサンの棲み処の天井で爆音が響き渡った。


「ティア!お客さんが来たらしい…。また後で連絡するよ…」


 そう言ってプレスは音のする方に視線を移すのだった。

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