第115話 ホテルの主

 プレスがリヴァイストホテルと呼んだ建物の内部は美しくも落ち着いた内装でまとめられていた。


 入り口を入って左手付近には大きなソファがいくつか並び、奥には食堂と思われる大きなスペースにこれまた大きく見事に装飾された暖炉が見てとれる。入り口右手には木目も美しい立派なカウンターが造られカウンター上には受付Receptionと書かれた銀色に輝くプレートが置かれている。


「これは見事な…。主殿…、ホ、ホテルというのは?」


「おれもこの建物の持ち主から教えて貰ったんだけど、高級であったり豪華だったりする宿のことを指すらしい。この大陸外の言葉と言ってたかな…?」


 見事な内装に圧倒されているティアの問いに答えたプレスは扉を閉めて受付Receptionと書かれたプレートが置いてあるカウンターへと向かう。


「これをね…」


 そう言いながらプレスはカウンター上のベルに魔力を纏わせた手で軽く触れる。


 リィーン…。


 美しいベルの音が響く。すると周囲から光が集まり始める。


「いらっしゃい。久しぶりじゃのー」


 そんな言葉と眩い光の集合と共に姿を現したのはローブを纏った老婆である。深く皺の入ったその表情に笑みを浮かべていた。プレスはいつもの様子だが、ティアは驚いて目を見張る。現れた老婆が纏う魔力量が尋常ではないのだ。明らかな強者が眼前にいる。その魔力量は恐らく現在のティアと同等…。従魔になる前に敵対していたなら一瞬で消滅させられただろう圧倒的な力を感じる。


 そんなティアの様子に気付いたプレスがティアの肩に手を置く。


「ティア、大丈夫だよ。あとで紹介するからちょっと待ってね。クリーオゥ!久しぶり!」


「ひっひっひっひっ。久しいのプレスちゃん…。しかしその恰好…、やはり冒険者をしておったか…」


「また…、ちゃん付けはちょっと…。まあ、いいや…。誰かから詳しい話を?」


「いや…、儂の耳にはとプレスちゃんが出奔したことしか届いておらんよ。辛かったのぅ…。東の精霊達から悲しい声が聞こえてきおった。話し相手を二人も失ったとの…。それから二年…ずっと旅かの?」


「なんとか…、これと一緒にね…。最近は旅を楽しめるようになったさ…」


 そう言って背中の木箱を見せるプレス。


「それは…継承したか…。あの子らしいのぅ。旅の目的は…いや、今は聞かん…。それよりもそちらの竜の嬢ちゃんを紹介してはくれんか?」


「旅の途中で出会って相棒になって貰ったティアだよ。冒険者としてパーティを組んでいる。出会ったときはグレイトドラゴンだったけど今は神滅呪文でもっと高位な何かになってる。ティア、こちらはクリーオゥ。クリーオゥ=リヴァイスト。この建物リヴァイストホテルの主だ」


「クリーオゥ殿。ティアと申します」


 そう言ってティアは頭を下げた。ティアにとってプレスとクリーオゥと名乗った老婆の会話は気になる内容だったが今は何も言わないことにする。


「ティアちゃん、こちらこそよろしく。儂は見ての通りちょっと変わった存在さ…。驚いたかい?」


「ええ。この建物にも、あなたの存在にも驚かされました。これほどの魔力量とは…」


「そんなに畏まらなくてもいいよ…。驚いたのは儂も一緒さ。儂も人のことは言えないが、この街にティアちゃんが入った時、どんな怪物が来たのかと思ったからね。近くにプレスちゃんの気配があったから安心して待つことができたよ…」


 そう言ってクリーオゥはカウンターの下から鍵の束を取り出した。


「久しぶりの再会に話し込んでしまって申し訳なかったね。部屋へと案内するよ」


「クリーオゥ、ありがとう。そのことだけど今日はまだ時間はあるかな?聞きたいことがあるんだ」


 プレスの言葉にクリーオゥが笑顔で答える。


「わかった。部屋でさっぱりしたら下りておいで。お茶を入れてあげるからね」

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