第116話 竜と精霊
「本当に素晴らしいな…」
ティアは二階に案内され自分の客室に入り感嘆の声を漏らす。
リヴァイストホテルはその客室もまた見事なものであった。天井が高い空間に作られた二つの部屋からなっており、浴室などはまた別の部屋となっている。二つの部屋の一つには六人程であってもゆったりとすごせるくらいのテーブルとソファが配置され、もう一つの部屋には大きい窓、ベッド、キャビネットなどが配置されていた。据えられた家具は磨き上げられたように美しくどれも年月を得たであろう落ち着いた雰囲気を伴っている。
「さてと…ロンドルギアでの水浴びは気持ちがよかったからな…」
そう言うとティアは浴室へと移動していった。
さっぱりとしたティアがロンドルギアで購入した新しい魔導士風のローブを纏って一階に降りると、奥のテーブルに座っているクリーオゥと目が合った。
「クリーオゥ殿。素晴らしい部屋だった。随分長い時を過ごしてきた我であるが、まだまだ知らないことがあると思い知らされる」
プレスはまだ下りてきていないらしい。
「気に入ってくれてよかったよ。おいで、お茶を淹れるから。ここはね、儂の趣味でやっている宿でね。実際、あの隠蔽は見事なものだろ?」
「我も主殿に言われてやっと違和感を覚えるくらいのものだった…」
「ああ、普通の亜人や人族では絶対に気付けない。だけどね…、時々迷い込んだように入ってくる奴がいるんだよ」
「ほう」
そんな話をしながらクリーオゥはお茶を出す。
「そんな奴を一泊もてなしてその様子を観察させてもらう。そのための宿なんだ。あ、観察といっても部屋の中は見ないことを誓っている。あそこの
「目的を聞いても?」
そう言ってお茶を口に含むティア。美味しかったようで笑みがこぼれる。
「儂はどうやらこの大陸で暮らす亜人や人族が好きで、興味があるらしいんだ…。ティアちゃんにとって儂はどんな存在に見えるかい?」
「…人族や亜人の類ではないことは分かる。我のような魔物でもないな…。存在としては精霊に近いが、そんな魔力量を持って具現化できる精霊など聞いたこともない…」
ティアの言葉に頷くクリーオゥ。
「実は儂もね…、自分でも自分がどんな存在なのかイマイチ分からないんだ。儂は自分の存在を認識したときからこの大河オーティス河口の半島にいた。ティアちゃんの一族であるグレイトドラゴンはまだこの世界にいなかったくらい昔のことさ。そしてどうやらこの半島部分からあまり遠くには行けないってことが分かってからはずっとここにいるのさ。ティアちゃんが言うように儂は精霊の類かもしくはこの世界に落された神みたいなものかと思っている」
「それは…?」
「この世界は神々が戯れに造ったっていう伝承はドラゴンにも伝わっているだろう?
「そ、それは、興味深い…。なるほど…。では今はこの宿の経営だけをされている?」
「いや…、いまの儂はこの姿で建物の表通りの部分を使って道具屋を営んでいる道具屋の婆さんということになっている。そう言えばティアちゃんはどんな姿にでもなれるのに随分と美人を選んだものだね?」
「主殿と出会うまで人化の魔法での容姿など気にかけたこともなかったが…。何故かこの姿がしっくりとくるのだ」
「従魔魔法の影響かもね…。儂は嬉しいよ。プレスちゃんがあなたを連れて旅をしていると言うことがね…」
「それは…、どういう…?」
唐突に嬉しいと言われきょとんとした様子のティアが問う。
「プレスちゃんと儂との会話が気になっただろう?気を使って何も言わないでくれて助かった。プレスちゃんもきっと感謝している。プレスちゃんから旅の目的は聞いたかい?」
ティアはプレスのことを話していいのだろうかと躊躇した。しかしこの老婆に隠し事をしてもクリーオゥがプレスに聞けばプレスは包み隠さず話すだろう。
「神殿を探すとは聞いた。何故探すのかまでは聞いてないが、我にとってそれは問題ではない。主殿はドラゴンゾンビにされた我が一族の者を解放し、何もない闇の中でただ朽ち果てるだけの存在だった我を解放してくれた。我はその恩義に報いるため主殿に同行し共に神殿を探すと誓い従魔となったのだ」
「そうだったんだね…。儂に言えるのはプレスちゃんに同行してくれてありがとうと言うことくらいさね。いつかプレスちゃんは神殿を探す理由をティアちゃんに話すだろう…。そうしたら力になってあげておくれ。しがない精霊の頼みと思ってさ。お願いね…」
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