第四章 旅する冒険者と港湾国家カシーラス

第一部 河口の街リドカル

第102話 大河オーティス中流域

 ここは大河オーティスの中流域。周囲をよく見ればいくつかの船を視認することができる。それぞれがこの大河オーティスによる海運を支える商船だ。そんな百メトル強ほどの川幅を持つこの大河において、それを下る一艘の中型帆船で冒険者が火矢フレイムアローを放ち魔物を撃退した。


「それにしても魔物が少ない…?」


 そう呟いたのはC級冒険者のプレストンことプレスである。護衛の依頼を受けて大河オーティスを下るこの商船に乗り込んだのが三日前、数えるほどの魔物の襲撃しか受けていなかった。今も甲板に飛び上がろうとした人型の魔物であるリバーサハギン一体を火矢フレイムアローで一蹴したところである。思い返すと襲撃のピークは初日に姿を現したリバーサハギン五体であった。それをプレスが火矢フレイムアローで瞬殺して以来、殆ど魔物は姿を見せていない。


「兄さん!本当にいい腕してるぜ!どうだ?この船うちの専属にならないか?」


 そう声を掛けてきたのはこの商船の船長である。日焼けした精悍な表情が歴戦の船乗りであることを物語っていた。初日の襲撃を一蹴したプレスの魔法に惚れ込んだらしい。


「お話はありがたいけど、目的のある旅をしているのでね…。専属は無理かな…」


「それは残念だ!けど兄さんみたいな凄腕が受けてくれて助かったぜ。いつも依頼している奴から嫁さんの出産が控えているってことで断られたときには心配だったんだが杞憂に終わったよ。今回は魔物も少ないようだし、このままなら何事もなくリドカルに着けそうだ!」


 この商船は特定の商会に所属するわけではなくフリーとして様々な商会からの依頼を受けて輸送を生業としているらしい。


「なあ、兄さん…。今回は魔物が少ないから戦っているところを見れていないが、あの姉さんもあんたと同じくらい腕利きなのか?」


 そう声を抑えながら聞いてくる船長はちらりと金髪を風に靡かせて気持ちよさそうにしている絶世の美女ティアに視線を送る。


「単純な強さならおれより強いかな…」


 同じく声を抑えてプレスが答えた内容に船長は目を見張る。


「羨ましいねぇ!おれもこんな商売をしていなかったら美人を連れて旅から旅の冒険者ってやつになっていたかな!?」


 それを聞いた他の船員から『船長はモテないから無理だろぉ!』とか『船長ではムリムリ!』とか『陸はモテないあんたにゃ似合わない!』などの声が上がる。


「うるさい!お前達!仕事しろ!仕事ぉ!」


 船長の激に船員たちは蜘蛛の子を散らすように仕事へと戻っていく。和気藹々、船員たちも気のいい者達で構成されており、船の雰囲気はとても良いものだった。


「そんなことより船長、聞きたいんだけど…。大河オーティスに出てくる魔物ってこんなに数が少ないのかい?」


 プレスは少し気になっていたことを尋ねる。


「いや…。今回が特別少ない方だな…。大河オーティスを往復しての商売は決して楽なものじゃない。月に何隻かは魔物によって沈没させられるのがいつものことだ。命懸けだがそれでも儲けが大きいから俺達みたいな商売が成り立っているのさ。だから俺達も結構な数の護衛を配置している」


「やっぱりそうだよね…」


「何か気になることでも…」


 そう船長がプレスに問いかけたとき、


「船長!!前方に魔物!!船が襲われている!」


 物見台から声がかかった。船内に緊張が走る。船長は望遠鏡を持ち事態を確認する。


「確かに…。魔物に襲われているようだ。ありゃリンドバル号だな。ってことは要人が乗っているか…。ま、それは関係ない!距離は凡そ…三十キロメトル!…どうやら一番近くにいるのが俺達だな…。兄さん達!これは船乗り達の掟ってやつだ。これから俺達はあの船の救援に向かう。手を貸してくれ!」


「依頼内容は『護衛を含めた必要な戦闘に参加する』だったしね…。何も問題ないよ!」


「我も主殿に従うのみだ!」


 その答えに船長は頷き声を上げた。


「よーし!!野郎ども!!我ら船乗り!古の掟に従い助けに行くぞ!リンドバル号に向けて舵を取れ!全速前進!!」


「「「「アイAYEアイAYEサーSIR!!!」」」」


 船員たちの声が響いた。

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