第101話 旅立ち 大河オーティスを下る
「うーん。これは気持ちがいい!」
抜けるような青空の下で爽やかな風に金髪を靡かせながら美しい女性が金色の瞳を隣の冒険者風の男へと向ける。
「ああ!やっぱり船旅は楽でいいね!」
そう答えるのはC級冒険者のプレスことプレストン。隣の美女は元グレイトドラゴンのティア。プレスの従魔となった現在はさらに格上の存在となっているが普段は人の姿をしている。
二人は大河オーティスを下る商船の護衛として港湾国家カシーラスの河口の街であるリドカルを目指していた。
あの領主館での戦いの後、プレスは亜人協会の面々と話し合い、人質をとって襲ってきた教団の関係者は亜人教会とプレスの共闘によって斃されたと口裏を合わせることにした。人質の救出も同様に亜人協会本部の護衛とティアの共闘とした。
プレスが目立ちたくないという理由もあったが、それ以上にプレスは亜人協会が冒険者ギルドに大きな借りを作ることを危惧した。ガーランド帝国に近いこのロンドルギアの街は領主、商業ギルド、冒険者ギルドがバランスをとって成り立ち、各所で活動する亜人たちの権利を亜人協会が守ることで上手く回っていた。このバランスを敢えて崩す必要はない、というのがプレスの主張であり亜人協会の会長であるレムルートはそれを受け入れたのだった。
その結末を知った冒険者ギルドのサブマスターであるセルジュは渋い顔をしたがプレスは取り合わなかった。依頼は『この街の発火点を除去すること』であり亜人協会との共闘の有無は条件に入っていない。この結果、プレスは報酬として金貨五十枚を受けとった。
後で知ったことだが、セルジュの言ったハプスクラインへ向かった密偵とは冒険者ギルドマスター本人だったという。これはプレスの予想通りだった。
騎士が派遣され全てが(多少のプレスによる創作部分はあるが)明るみに出て、領主の交代が行われることとなり、新しい領主がハプスクラインから派遣され次第、式典が開かれるという。
そんなことが決まりつつある日にプレスはロンドルギアの街を発つことを決めた。式典のようなものに煩わされるのはプレスの趣味ではなかったのである。
最後の食事としてプレスとティアはコボルト亭を訪れた。主人のギゼルは喜び腕によりをかけた料理で二人をもてなした。ギゼルは今回の騒動にプレス達が絡んでいると感じていたが、話題にはしなかった。そしてこの店を引き払う目処が立ったことを話し、プレスに感謝を伝えた。
「色々とありがとう!本当に感謝している!必ずレーヴェ神国で店を出すからその時は訪ねてきてくれ!」
コボルト亭を後にしたプレスとティアは大河オーティスを下り港湾国家カシーラスの街リドカルへと向かう商船の護衛依頼を受けたのである。
船は快調に河面を走る。
「色々とあったがコボルト亭の食事は美味であった。主殿の側にいると退屈しないな…。次の街でも何が待っているか楽しみだぞ?」
「穏やかな旅ができればそれでいいんだけどね…。でもティアと一緒なら何があっても大丈夫!次の街でも楽しむ気持ちで行こう!」
「心得た!」
見事なまでに青く澄んだ晴天の空は本格的な夏の到来を示していた。
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