第100話 金色の火矢と金色の剣
「
プレスがそう唱えた瞬間、木箱の上方が開き一振りの剣が飛び出した。
プレスはその剣の柄を握る。全てが金色に光り輝く片刃の剣。刃渡りは一メトルほどだろうか。拵えは素朴だが刀身は言葉にできないほどの美しさを湛えている。
切っ先を向けニコライを見据えるプレス。本来は夜のように漆黒なその瞳が金色に輝いていた。
ニコライはというと耳や目と言った部位は既に崩れ落ち赤黒い肉塊へと膨れ上がっている。辛うじてかつて人族であった名残を感じさせるだけの形を留めているその
まさに異形である。そしてその膨れ上がったかつて胴体であったと思われる部分が横に裂けた。その裂け目からは醜悪な牙が並んだ口が生まれる。その上に再び裂け目が生じ一つの眼球が形造られキョロキョロと周囲を見渡す。
「人であることを捨てたか…」
「きしゃあああああああああ!!」
プレスの呟きに、その姿を見つけたのかプレスに向かい咆哮で返すかつてニコライであった魔獣。
「最早、言葉も理解できまい…行くぞ!」
プレスが動き出す直前、その戦意を感じ取ったかのように無数の触手がプレスへと襲いかかる。
「は!」
人知を超えた速度で繰り出された無数の斬撃が全ての触手を斬り裂きプレスは一気に魔獣との距離を詰める。肉薄したプレスが必殺の一撃を放とうとした時、
「え!?」
プレスは横に飛んで距離を取る。
ドプン!
そんな音と共に先程までプレスがいた場所の床が溶け落ちた。その部分には赤黒い液体が満たされた空間が現れる。
「……何らかの空間魔法かな…?」
プレスは一撃を放つ瞬間、足元に広がった嫌な魔力を感じて飛び退っていたのだ。恐らく攻撃していれば斃すと同時にあの液体に吞まれていた可能性がある。あの液体は危険だとプレスの感が告げていた。
「タチの悪い魔獣だ…。攻撃した者をあの液体に落として相打ちでも構わないから滅ぼすってことかな?」
「ゲゲゲゲゲゲ!」
魔獣が声を上げる。嘲笑っているようだ。攻撃できるものならやってみろと言っているようである。
その様子にプレスは口元に笑みを浮かべて魔獣に向かって左手の掌を向ける。
「倒し方なんてたくさんあるけどね…。ま、正攻法で!
そう唱えたプレスの眼前に金色に輝く火矢が生まれる。先程プレスが放った青白く輝く火矢など比べ物にならないほどの魔力と熱量だ。
「ぎ!?ぎぎいいいぃ!」
魔獣もその火矢の危険性を理解したのか触手を放つ。
殺到する触手を斬り飛ばしながら放たれた金色の火矢は見事なまでの速度で魔獣に着弾した。
「ぎゃああああああああ!!」
瞬く間に魔獣が紅と金からなる鮮やかな炎に包まれる。普通の
燃え上がった魔獣の
「そこだ!!」
プレスは神速で駆け抜けざま魔力の塊を銀鎖ごと細切れに切り裂いた。炎に包まれつつ魔獣が消滅する。
「ふー…
途端に光が消え、剣が木箱に収納される。
プレスが安堵の息を吐く。ロンドルギアの街においてクレティアス教へと与する者たちの思惑はここに潰えたのであった。
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