第97話 逆転
「何故だ?魔道具は使えないハズなのに…」
プレスは涼しい顔で魔道具を止めてニコライを見据える。
「この会議室に入る前からこの結界が天井裏の魔道具を使って発生させていることは分かっていたのさ。ちょいと細工して魔道具使用に関する箇所を破壊させてもらった」
「そ、そんなことは不可能だ!!」
動揺するニコライ。実際には天井に仕掛けられた結界発生の魔道具を見抜いたプレスが
「そんなどうでもいい!!それよりどうする?証拠はおれの手の中にある。今頃は公国の騎士団が事態を収束させるためこちらに向かっているはずだ。これを渡せばお前たちは終わる。一度だけ…、たった一度だけチャンスをやろう。武器を捨て、人質を解放し降伏しろ!」
プレスの言葉にニコライは蔑むような笑みを浮かべた。そして呟く。
「ここから出ることは出来ない…」
そう、秘書官を含めてこちらは十三人、亜人協会は五人。冒険者を随分前に引退したレムルートにA級冒険者だったかつての実力はない。参謀格は戦力外。護衛の亜人も武器を持っていない。そして残るはたかがC級冒険者。冒険者が奥の手を持っていることはニコライのような教団の司祭であれば当然のごとく把握している。恐らく魔道具を使用したことがC級冒険者の奥の手だったのだろうとニコライは見定めた。
「C級冒険者風情が調子に乗るな!ここから無事に逃げ出せるとでも?我々が人質を解放する?馬鹿め!貴様のその魔道具を奪えば何も問題ない!!」
ニコライ側が戦闘態勢に入る。亜人協会の面々は武器がない状態で身構えた。
「ふぅ。愚か者もここまでくるとね…」
「な、なにを…」
プレスの言葉にニコライが言い返そうとした瞬間、
「な、なんだ?」
「ぎゃああああ!!!」
「敵だ!散開、散開するんだ!」
「無理です!速すぎて……うわああああ!」
「た、助け、助けて…、ぐっ!!!」
亜人協会本部の映像から叫び声が聞こえてくた。全員が視線を移すその先には人質に刃を向けていた者達が次々に薙ぎ倒されている様子であった。魔導士風のローブに身を包んだ者が徒手空拳で侵襲者を駆逐する圧巻の光景である。当然、この魔導士風の戦士はティアである。ティアには特に手加減は考えなくていいと言ってある。その証拠に腹に一撃を入れられた侵入者は錐揉み状に壁へと激突し人族では絶対にありえない形に体を折り曲げていた。
「こ、これは?」
「人質が救出される様子に決まっているだろう?」
唖然とするニコライに平然と答えるプレス。
「気分はどうだ?
そう言ってプレスは続ける。
「ちなみに…」
右手の人差し指を立てる。挑発だ。
「亜人協会本部の護衛を少なくさせたのはおれの指示だ。レムルートさんの指示だと偽ってね。お前達のような小悪党は単純だからな…。やろうとすることはよく分かる…。お前たちはおれの計画通りに罠に飛び込んだのさ。あ、ここにいる亜人協会の面々はこのことは知らなかったからね。彼等も本当に驚愕していただろう?そのせいでお前は調子に乗ってペラペラと喋ってどんどん事を進めてくれた。『敵を欺くにはまず味方から』っていうけど真実だよな…。本当にうまくいく…」
うんうんと自分で納得するプレス。
先程の笑みはどこへ行ったのか、みるみるうちにニコライの表情は怒りの感情で埋め尽くされる。しかしプレスはそんなことは気にしない。
「さてと…。さっきなんて言ったかな?『ここから無事に逃げ出せるとでも?』だっけ?逃げ出すわけがないだろう?全員ここで斃す!!
詠唱が会議室に響く。プレスの眼前に十三本の青白く光り輝く火矢が現れたのだった。
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