第94話 始まる会議
「亜人協会の皆様!お待ちしておりましたよ!私は冒険者ギルドのギルドマスター代行をしておりますニコライと申します」
そう声を掛けてきたのはニコライ=ローレンシアである。クレティアス教の司祭にしてロンドルギア支部の副支部長を務めていると言っていた。まだ領主は姿を現してはいないらしい。
「亜人協会の会長をしているレムルートだ。待たせたつもりはなかったのだが…。遅れたのであれば申し訳ない」
レムルートは無表情でそう声を掛ける。激情を持つ性質ではあるがこういう場での立ち居振る舞いは協会の会長としてなかなか堂に入ったものであった。
「遅れたなどとはとんでもない!我々が早く到着しすぎただけのことです。あ、紹介しておきましょうあちらが商業ギルドのギルドマスター代理を務めているフランツです」
フランツと呼ばれた男は座ったまま黙って頭を下げる。あまりこの場に相応しい作法とも思えないがレムルートはそれを指摘することもなく同じように軽く頭を下げて席に着いた。
ニコライ=ローレンシアの後ろには五人の冒険者風の男達が座っている。見た目は冒険者風ではあるが、本当に冒険者なのか教団の関係者なのかは判断ができない。いずれにしてもなかなかの実力者達だとプレスは感じている。タージであれば不測を取ることはないだろうがプレスと模擬戦をした豹の獣人では一対一では危ないだろう。
その一方で、無言でこちらを見つめる男にもプレスは注意を払う。恐らく商業ギルドのギルドマスター代理の筈だ。この男もクレティアス教の司祭である可能性が高い。服装は魔導士のそれを思わせるがプレスは簡単には信じない。教団の司祭クラスは見た目と実力や能力は一致しないのである。その後ろにも魔導士風の者達が五人控えているが、この空間は魔法が使えないことは周知されている。魔導士ばかりを連れてくるだろうか…。
「お待たせいたしました。領主様がお見えになります」
秘書官の男の声が響き、その場の全員が立ち上がって居住まいを正したとき、初老の男が姿をみせた。この男が領主なのだろう。領主が席に着き、皆が着席する。そして領主の声が会議場に響く。
「皆の者、この慌ただしい状況の中でよくぞ集まってくれた。まずはそのことに礼を言う。では始めるとしよう。この会議であるが、亜人協会より、冒険者、商業の両ギルドにおいてギルドマスターが代行へと変わったことに由来する亜人への対応についての確認と今後の両ギルドの運営方針について確認したい旨を聞いている。レムルート!相違はないか?」
「領主殿。こちらに相違はございません」
「では発言を…」
「は…。単刀直入に両ギルドのマスター代理にお伺いする。今回の事態でお二人がギルドマスター代行に就任したことについてはもはや異論はない。しかし、我々亜人にとっては懸念がある。そなたたちはクレティアス教でしかるべき地位に就いていたとの話を我々は聞いている。特にニコライ殿は司祭であったとな…。クレティアス教の亜人への対応については最早説明する必要もあるまい。我々は今後両ギルドが亜人へどのように対応するかに大きな懸念を持たざるを得ない。是非ともこの場でお二人の考えを聞かせてもらいたい」
これはレムルートだけではなく亜人達の素直な現状なのであろうことをプレスは想像する。問題はどのような回答が両ギルドマスター代行から返ってくるかだが…。
レムルートの言葉に最初にニコライが立ち上がる。
「対応について懸念を抱かれるようなことはございません」
人を喰ったように芝居がかった態度だ。プレスはこの回答がろくなものではないことを予感して表情には出さずにため息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます