第69話 騎士の力
「よう!ねーちゃんたちは冒険者か?そんなことよりこっちで酌でもしてくれねえか?別に酌だけじゃなくてもいいぜ!折角の上玉だ!どうせなら一晩中可愛がってやるよ!ガハハハハ!!」
ガルドの笑い声がホールに響き、酒場から覗いている取り巻きも笑い出す。下品な笑い声がギルド内に響いていた。
「…あ!これが世に聞く下品な冒険者野郎がするというナンパか!?なるほどなるほど…」
きょとんとしていたミケだがガルドの態度に納得したかのように大きな声で独り言を話しながらうんうんと頷く。それを聞いたガルドは猫耳の女性を睨みつける。
「ねーちゃん!何を言っているんだ?」
鋭い視線を向けるがミケは一向に気するそぶりは見せない。
「いやー。ごめん。でもあたいは強い男が好きなんだ。あんたは強い?」
「A級冒険者に強いかって聞くのか?おれにかかれば…。え…?」
その時、ミケの足元に亀裂が入り、びしり!!っと強烈な音がホールに響いた。ギルドの床は丈夫な石造りのためそんなことは想定されていない。そして全員の目に映ったのはどこから出したかミケが片手に持つ巨大な金属の塊だった。あれは斧か…?全長は四メトル以上ありこの高いホールの天井に届かんばかりのその塊からは凄まじい
「これ持ってみて!」
ミケはぽいっとそれをガルドに投げ渡す。
ずずぅうううううん!!その質量に耐えきれなかった石造りの床が沈む。斧はガルドを巻き込みながら一.五メトル程は沈み込んでいた。
「あ…」
ミケが呆気にとられる。ギルドの冒険者や職員たちは声も上げられない。
「ミケさん…。何をしているんですか…?」
声をかけたのはサラと呼ばれた女性だ。ミケを叱っているようだがどことなく緊張感がない。
「いや…、だって…、強いって言うから…」
「普通の冒険者の方がそんな斧を受けとめられる訳がないじゃないですか?」
「でも…、みんなできるじゃんか…」
「我々と一緒にしてはいけません。もう…、それに殺しちゃうし…。少しは手加減というものを自覚なさって下さい。元に戻すのも面倒なんですからね…」
ミケは斧をひょいっと持ち上げる。血振りをされた斧がどこかへ収納される。斧が穿った穴の底を覗くと無残な死体が転がっていた。
「あ…、ほんとだ…、死んじゃってるよ。よわっ…。サラ!ごめん…、あたいが悪かった。お願いできる?」
「まったく条件が難しいんですからね…。いきますよ!
サラと呼ばれた魔導士が唱えると途端に石造りの床が復元され始める。
「な、なんだ?」
「魔法?」
「聞いたことないぞ!」
周囲からそんな言葉が漏れたとき、
「
サラの声が再び響いて、周囲に眩い閃光が走る。
「「「うっ!」」」
ミケとサラのやり取りを見ていた全員が閃光から目を逸らす。閃光が収まった時、
「な、なんだ?俺様はどうしてここに居る?」
何事もなかったように床が復元され、事情を呑み込めていない表情でガルドがそこに座っていた。
唖然とする一同を気にも留めない様子で二人は受付へと辿り着く。
「こんにちはー」
ミケの無邪気な言葉にマリアは引きつった笑みを浮かべる。
「は、はい。カーマインの街の冒険者ギルドへようこそ…。あの…、先程はなにをされたのですか?」
「うーん。秘密…?それよりも人を探しているんだけど、冒険者の居場所を照会してほしいんだ」
冒険者は天涯孤独のならず者も多いが家族がいて真面目に取り組む者も一定数存在する。各街の冒険者ギルドにはネットワークを構築する魔道具が用いられており身内の証明ができる者は親しい冒険者の遠征などによる直近の行動を把握することができた。無論、冒険者本人がその制度を使用することを許容していることが前提になるが…。
「か、畏まりました。それでは身内の方と証明できるものを提出して頂けますか?」
「ごめんよー。身内の証明は無いんだけどこれで許してくれない?」
そう言って
それをみたマリアは凍り付く。彼女はその紋章の意味を知っている。冒険者ギルドの受付嬢である以上、絶対に知っておかなくてはならない紋章がそこにあった。マリアは恐怖で震えながらも精一杯の声を出した。
「そ、そ、そ、そ、その紋章は!!!レ、レーヴェ神国聖印騎士団の方ですか?」
「ん?そうだよ。あたいがレーヴェ神国聖印騎士団二番隊隊長のミケランジェロ=ハーティアだ」
「では私も自己紹介を…。同じくレーヴェ神国聖印騎士団五番隊隊長のサラ=スターシーカーと申します」
周囲で様子を見ていた冒険者の何人かがその言葉を聞いて失神した。
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