その頃、カーマインの街
第68話 二人の訪問者
ここはカーマインの街。魔物からの直接の被害を受けなかったこの街はいつもの日常を取り戻していた。ここ数日は随分と暑い。本格的な夏まであと少しと言ったところだろうか。
冒険者ギルドで受付嬢をしているマリアは事務作業をしながらいつものホールの風景を見て安心する。皆、元の生活に戻れたようだ。黒いワイバーンとの戦闘やダークリッチ討伐に参加して負傷した冒険者達も復帰している。ふと作業の手を止めたマリアはこの日常を護ってくれたある冒険者のことを思い出す。
「プレスさん…」
呟きが漏れた。旅をしているというC級の冒険者。グレイトドラゴンのドラゴンゾンビを
少し前、湖岸の街ハプスクラインから元冒険者シングルトンと勇者候補プレストンのパーティがダンジョン内で死亡したとの連絡が届いた。同じ名前であったためマリアを含めた事情を知る一部の者は慌てたが、このプレストンが英雄的行為をしたプレストンではないことは確認されていた。
しかし時を前後してプレストンがシングルトンを名乗って御前試合に登場したという非公式な情報も届く、がその後エルニサエル公国大公家からプレストン宛に報酬の支払い連絡が各ギルドに届きそれを受け取ったとの連絡も届いていた。
本人が望むと望まざるとに関わらず何かに巻き込まれているのかも知れない。無事だとは思われるが今はどの辺りを旅しているのだろうか…。マリアがそんなことをふと思い浮かべているとギルドの扉が勢いよく開かれた。
「たのもー!!」
よく通る女性の声がホールに響く。そこに居た冒険者の視線が集まる先には二人の女性が立っていた。
一人は猫耳の女性である。
もう一人は輝くような銀髪を湛える美しい人族の女性だ。まるで淑女といった趣は冒険者ギルドとは全く不釣り合いな雰囲気を漂わせている。どうもこちらは魔導士らしくローブを纏っているがそのローブも美しい体のラインを隠しきれてはいなかった。
二人とも街ですれ違えば男であれば必ず振り返るほどの美女である。冒険者に女性は決して珍しくはないがこれほどの美女をギルドで見かけることは少ないと言えた。既に男性冒険者の視線は二人に釘付であった。
「ミケさん!道場破りではないのですからその挨拶はいかがなものかと…」
「いいじゃないかサラ!気合いだよ!気合い!へへへ…。それでどこで聞けばいいんだ?」
「ええと…。ああ、あちらのカウンターですね」
どうやら先ほどかかった声はミケと呼ばれた
カウンターへと移動しようとする二人…。当然のように男の冒険者が行先を遮る。ホールと繋がっている酒場に居た背丈二メトル程の大男だ。受付に居たマリアは顔を顰める。この冒険者の名前はガルド。最近この街に流れてきたA級冒険者である。A級だけあって腕はいいが粗野な行動が目立ちギルドは彼へ注意するタイミングを検討し始めているところであった。
「…ん?…あたいらに何か用か?」
ミケと呼ばれた
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