第51話 深層へ
「
プレスの口から言葉が紡がれ光り輝く魔法陣がグレイトドラゴンの周囲に無数に出現する。そして魔法陣から金色の光の粒子が放たれドラゴンを金色に染め上げる。
「おお…」
感嘆の声を漏らすグレイトドラゴン。その光は温かくそして心地好かった。二百年もの長きにわたり暗闇に囚われていたのである。このような温かい光に包まれることなど想像もしていなかったドラゴンは心地好さげにゆっくりと眼を閉じる。
徐々ではあるがドラゴンの躰が金色に染め上げられ、その光が全身を覆うかと思われたその時…。
パリン!と乾いた音と共に一つの魔法陣が弾け飛ぶ。
「あれ?」
プレスが声を挙げ、ドラゴンもゆっくりと眼を開ける。
「どうしたのだ?プレス殿?」
プレスは魔法術式を確認しながら魔法陣があった場所に新たな魔法陣を展開する。
「どうやら…。あの漆黒の杭のせいみたいだね…。魂に傷みたいなものが付いている。通常の生活では問題ないけど従魔術の行使に影響があるみたいだね…。魂も修復しながらの魔術行使になるけど構わないかな?」
「ああ。構わぬ…」
「ちょっと時間が掛かるよ…。数時間ってとこかな…。魔力が持つことを祈ろう!」
そんな話を事も無げに行う両者。さらりと会話しているが魂の修復はそう簡単なものではない。周囲に普通の種族がいないためプレスの並外れた力量を量れる者がいないのだ。幸いマジックボックスの魔力ポーションにはまだ余裕がある。プレスは術式を続行した。。
プレスによる従魔の魔法が完了するまではいま少し時が必要になるだろう…。
一方そのころ…。
「ここが深層への入り口か…。トーマス殿下!王家の秘宝ってやつを頼む!」
そう言っているのは勇者候補のプレストンである。
更に遡ることこと数時間…。
プレスが転送された後、サファイアは当然のことながら勇者候補とそのパーティにあの状況について問い質した。しかしユスティ殿下を巻き込んだことの謝罪はあったものの、ミスによる偶発的な事故だったとのらりくらりと躱されるばかりであった。
もっときつく問い詰めることも出来なくはないがプレスが居ない状況で冒険者である彼らの力を借りなければ先に進むことが出来ないのもまた事実である。
騎士は戦闘で活躍することはできるが、ダンジョン内のトラップ等に関する対応については素人同然。いくら深層の入り口までが初心者用のダンジョンと言ってもどうにかできるものではない。
それを理解していたトーマスとサファイアはパーティを崩壊させないためにもぐっとこらえ先を目指すことを優先した。
「サファイア。大丈夫!プレスさんは強いから!」
トーマスがそうサファイアに囁く。
「私はユスティを助けてくれた礼をまだしていない。必ずこのダンジョンの深層まで辿り着いてプレスさんに感謝を伝えなければ…」
「はい!殿下。私も同じ気持ちです。それにプレス殿が死ぬとは思えません!」
トーマスにそう答えるサファイア。二人は向き合って笑みを浮かべた。深層には強大な魔物がいると言われている。そうであっても二人はプレスが死ぬとは考えなかった。
…そして場所は深層の入り口へ。
パーティの目の前に巨大な石造りの扉が現れる。通常このハプスクラインのダンジョンに潜る者にとってはここが終点となっている。この扉はどんなことをしても開くことができないというのが冒険者達の常識であった。
トーマスはその扉の中央部分に何かを填め込むための窪みを見つけた。国宝である『破邪の首飾り』を取り出す。首飾りのチェーン部分を含めた全てがこの窪みに納まりそうだ。トーマスは窪みに合わせて首飾りを填め込む。すると…。
「うわ!」
巨大な閃光が発生しトーマスが下がる、サファイアが彼を守る様に前に出た。閃光が収まると石造りであったはずの扉が赤銅色の金属製の扉に変わっていた。
その扉が大きな音を立ててゆっくりと開かれる。
「ここから先が深層か…先ずはおれたちが入って様子を確認する。他の連中は殿下たちを守るんだ!」
勇者候補のパーティが先に入る。トーマスはユスティと共に剣を構える。騎士であるサファイア、カダッツ、ミラの三人はトーマとスユスティを護るように布陣を整え後に続いた。
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