第50話 滅するものと竜
かつてこの世界は神々によって創られた。神々は暇つぶしとしてこの世界に干渉し、そのことによって発生した超常の現象にこの世界の人々が慌てふためくさまを見て悦に浸っていた。この世界は神々が戯れに遊ぶ箱庭に過ぎなかった…。
しかしそんな神々の中にあってこの世界の者達にも自由に生きる権利があるのだと思い至る神が現れた。それは神々の中でも末端のものであったがその神は秘かに事を起こし、神々が起こす戯れに対抗できる力…、いや神そのものに対抗できる力をこの世界に生きる者へ与えたと言われる。それが
人の歴史には殆ど記されてはいないものの、その力を持つ者はこの世界の歴史に度々姿を現し、ある者は勇者として戦い国を興し賢王と称えられ、ある者は魔王として暴虐の限りを尽くしたとも言われている。そして…。
「我も悠久の時を生きるグレイトドラゴン…。その力を持つ幾人かには出会ったことがある…。その当代がそなたか…?」
その問いかけにプレスは首を振る…。
「いや…。おれは知り合いから継承しただけだよ…」
そして自嘲気味に笑った。その笑顔にはどこか悲しみが湛えられている。
「そうか…。いや今深くは聞くまい…。それよりも本当に感謝する…。まさか自由を得る日が来るとは思っていなかった」
そう言ってドラゴンは頭を下げた。プレスは手を振って応える。
「そんな…。大したことじゃないさ…。でも上手く助けることが出来てよかったよ…」
そんなプレスを見ながらドラゴンが話す。
「ふむ…。深くは聞かぬと言ったがプレストン殿よ…。一つ問うてもよいか?」
唐突なドラゴンの問いかけにもプレスは既にいつもの調子に戻っていた。
「何かな?それと呼び方はプレスでいいよ?」
「ではプレス殿…。そなた
その問いにプレスは先ほどの自嘲的な笑みを浮かべる。視線をドラゴンから外し人ごとのように答えた。
「行きたい場所があってね…」
「!」
プレスの答えにドラゴンの目が見開かれる。
「も、もしやそなた…。神殿を探すつもりか…?」
「流石は悠久の時を生きるグレイトドラゴン!全部お見通しだね?」
プレスが感心して返す。ドラゴンも得心したが戸惑いも隠せない。
「そういうことか…。しかしプレス殿…。それは険しき道…。我も神殿のことはドラゴンの言い伝えとしてくらいではあるが知っている。しかし歴代の
「それならおれが一人目になればいいだけさ…」
事も無げに答えるプレス。
ドラゴンは信じられないものを見るかのようにプレスを見つめる。ドラゴンは驚いていた。
力のある人の子は富や名声を求めるもの…。長い時の中でグレイトドラゴンはそんな人間の姿を見続けてきた。
グレイトドラゴンの長を務めてきたこの竜は感謝の念と共にプレスという存在に興味と好意を持った。そして一つの方法を提案することに決めた。
「それならば…」
そう呟いたドラゴンは改めてプレスに問う。
「プレス殿!そなたはもう一つの神滅呪文も使えるな?」
「えっ?ま、まあ…。使えるけど…」
そう答えたプレスに放ったドラゴンの言葉はプレスを驚かせるものだった。
「プレス殿…。そなたの神殿を探す旅に我も同行しよう。そして我を
その答えにプレスは動揺する。
「いやいやいやいや…。それはそれはそれは…。同行してダメとは言わないけどさ…。眷属化はマズいんじゃない?あの魔法は本当に魂の一片までも未来永劫隷属化してしまうような魔法だよ?」
「構わぬ。先ほども言ったであろう。もう我には何も無かったのだ。この壁に磔にされ、唯々死を待つだけの存在であった。神殿への道は険しき道。我が力は役に立つ。そして何より…」
グレイトドラゴンはそこで言葉を切った。プレスに向かって頭を下げる。誇り高いグレイトドラゴンの長がプレスに服従の態度をとる。
「何よりもこの恩をそなたに返したいのだ。我が同胞を苦しみから解放し我も救ってくれた。我らが誇りを守ってくれた偉大なる者!我にそなたの従魔としてこの恩を返す機会をくれないだろうか?」
そこまで言われたプレス…。彼もまた戦士の誇りを知る者である。彼はグレイトドラゴンの気持ちに応えることにした。
「分かったよ。従魔の魔法を行う…。名を与えることになるがどんな名前がいいかな?」
「そなたの好む名で構わぬ」
「性別ってないんだっけ?」
「人の子が言うような性別は無いが…。恐らくそなたらが魔物を評する際の言葉を使うなら雌が近いと思うぞ」
「そうなんだ…。雌…、女性ね…。……じゃあティアってどうかな?」
「うむ。構わぬぞ!」
そう聞いたプレスは懐から紙を取り出す。そして右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当てそしてプレスが唱えた。
「
木箱の上方が開き一振りの長剣が飛び出す。
プレスはその長剣の束を握った。本来漆黒であるその瞳が金色に輝く。と同時にさらなる言葉を唱えた。
「
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