第48話 解き放て

 ドラゴンによるとやはり彼はグレイトドラゴンと人々が呼んでいる種族らしい。彼なのか彼女なのか分からないが言うところによるとこのドラゴンが一族を率いる長であり二百年ほど前までは平和に暮らしていたという。ドラゴンにとって名前はあまり意味のあるものでは無いとのことで名前は持っていなかった。


 二百年前このドラゴンが里を不在にしていた折、何者かの襲撃を受けたらしい。一族の殆どが殺され、何体かは連れ去られてしまったという。


 グレイトドラゴンはドラゴンの中でもかなり高位の部類に入る。そのグレイトドラゴンをそれほどまでに圧倒する存在がいたということになる。


 このドラゴンは生き残った者の話を聞きその後を追ったそうだ。そしてこのダンジョンのこの場所で傷ついた仲間を見つけたと言う。


「我は愚かで…、迂闊であった…」


 そう悔恨を述べるドラゴン。


 それは罠だった。仲間を見つけたこのドラゴンはその安堵から周囲の警戒を怠ってしまった。そして仲間に近づいた瞬間に罠が作動し突き立てられた杭に磔にされたと言う。


「以来二百年ほどだろうか…。我はここに囚われている。この杭は我が魔力に刺さっているため痛みは無い。しかしこの杭は我の魔力も動きも完全に押し留める力があるのだ。グレイトドラゴンであったとしても全く抗えないほどの強大な力がな…」


 ここでプレスが口を開く。


「一体、あなたの里を襲い、こんなことを行った者は何者だ?相手に心当たりはあるのかい?」


「心当たりは全くないがこの二百年の間にこの罠を設置した者とは会ったことがある。黒いローブを纏った人ならざる者であろうな…。口の軽い小物のようであるがこの罠を管理しているようであった」


「魔族か?目的は聞けたのか?」


「魔族とは言い切れない。なにやら面妖な魔力を纏っていた。この鎖さえなければ勝てる相手だろう…。だがそれは叶わぬことだ…。目的はどうやら我は何らかの兵器を起動する装置となるらしい」


「装置?」


「うむ。このダンジョンには世界を崩壊させることが出来るほどの兵器が眠っていると言っていた。そして奴が口を滑らせたところその起動にはそしてが必要と言っていたな。膨大な魔力というのが我のことだろう。我が魔石の魔力は強大だ。そして我には分からぬことだが、『継承の宝玉は真に大公とならんとする者が現れない限りいかなる方法でも入手はできない。今は時を待っている』とも言っていたな…」


 ドラゴンの話にプレスは思うところがあった。


 この国の秘宝とは『破邪の首飾り』だろう。継承の宝玉はまさに今トーマスとユスティが入手に挑戦している。ユスティを大公にとはまさか…。宝玉を手に入れたい者達がいるのか…?


 そんな思考を巡らせていたプレスはドラゴンを封じている鎖の魔力にある特徴があることに気づいた。はっとするプレスに構わずドラゴンが話を続ける。


「最早、我には何もないのだ…。ここにいた同胞の行方も知れない…。いや恐らく殺されているだろうが…。我はここで死を選ぶことすらもできない。我らは争いを好まぬが戦士としての誇りは持っている。このような屈辱は死よりも耐え難いものだ。人の子よ。そなたから感じるその力は我を殺せるであろう?どうか頼みを聞いてくれぬか?ここで会ったも縁…。このまま装置の部品として生きるのではなくドラゴンとして死なせてはくれないだろうか!?」


 そう言ったドラゴンの目から一筋の涙が流れる。それを見ていたプレスはマジックボックスから巨大な魔石を取り出す。


「まあ、待って!これを知っているかい?」


 ドラゴンはプレスの魔石を見る。そして驚きの声を挙げる。


「それは…、それはここに居た我が同胞の魔石。何故だ?なぜそれをそなたがそれを持っている?」


「聞いてくれ!もう先月のことになるか…。この近くのカーマインの街が厄災と言えるような魔物達に襲われたんだ。魔物は主に三体。黒いワイバーンとグレイトドラゴンのドラゴンゾンビそしてダークリッチだった」


「グレイトドラゴンのドラゴンゾンビだと?」


「ああ。それを斃したのはこのおれだ。ドラゴンゾンビはダークリッチが意図的に創り出したと言っていた。そのダークリッチも斃したけどね…」


「なんということだ…。ドラゴンゾンビにされていたとは…。それは死よりも辛かったであろう…。そなたが斃したのだな?そして仇まで…。本当にかたじけない。同胞を苦しみから解放してくれたことに心から感謝する…。二百年間ここに居た甲斐があったというものだ…。ならば…ならばいま一つ我の願いを聞き入れて欲しい。我が同胞と同じように我をこの無限の地獄から解き放ってはくれまいか?」


「まあ、落ち着いて!これからあなたを助ける。それでいいかな?」


 プレスの意外な言葉にドラゴンは目を見開く。


「しかしそんなことは不可能であろう?そなたの力は認める。しかしそれであってもこの膨大な魔力を放つ杭を壊せるとは思えぬのだ」


「見ててくれ!動くなよ!」


 そう言ってプレスは木箱に手を掛ける。古来より人語を話すドラゴンを助けることはあの国の騎士にとって非常に名誉なこととされていた。あの頃の誓いは最早過去のことではあるがプレスはこのドラゴンを助けたいと思った。


 確かにこの杭の魔力は強大だ。何をすればここまで禍々しいものを創り出せるのか想像もつかない。だが…プレスにとって左程の問題でもないことは彼自身も感じていた。


 プレスは懐から紙を取り出す。そして右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当てそしてプレスが唱えた。


天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」

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