第45話 探索開始

「合計で十人…。シングルトンさん、ダンジョン探索というものは何人で行われるものなのですか?」


 第一層に入ってトーマスがプレスへと尋ねる。


「パーティによって様々ではあるね。ソロも当然あるし。だけど十人はちょっと多めかも…。前衛として直接攻撃ができる者が二人、後衛として弓矢とか魔法で攻撃できる者が一人、回復役が一人、斥候としてトラップ等を解除するものが一人で計五人位いると安心かもね。斥候は前衛の者が兼務することもあるよ」


 そんな話をしながら彼らは十人で行動していた。パーティの先頭は勇者候補パーティの女性である。彼女は斥候を担当できるというので任されることとなった。プレスの第一印象では魔法使いかと思ったがローブの下には杖ではなく短剣が装備されていた。ローブの裏にも薄い刃物が隠されているのをプレスは見逃さなかった。武器を隠すところから見て暗殺者系の職業だろう。


「兄上、先ずは深層を目指すのですね?」


 ユスティは兄の隣を歩く。護衛対象は固まってくれていた方が狭いダンジョンでは守りやすい。


「ユスティ、気を付けて行きましょう」

「はい。兄上」


 プレスは少し会話した程度であるがユスティもトーマスと同じく才気ある若者だと感じられた。何とかこの二人の継承問題を穏便に解決したいと思っているプレスである。


 そしてこのダンジョン…。


 ダンジョンはこの世界に発生する謎の建造物であると言われる。その中では魔物が跳梁し、何故か宝箱があり、魔物を斃した場合や宝箱からは貴重な品が手に入る。そして何度斃してもどんなに回収してもそれらは再び復活する。その原理は未だ不明ながらも貴重な品々がもたらす多大な利益を求めて多くの冒険者がダンジョン探索を行っている。基本ソロのプレスはリスクが伴うダンジョンの探索は自ら進んで行うことはない。しかし世界にはダンジョン探索のみを行う冒険者も多い。魔物はスライムといった誰でも勝てる魔物から場所によってはドラゴンのような強力な魔物も出ることがある。しかし斃すと忽然と姿を消し、時にドロップ品と呼ばれる貴重なものを落としていく様子からダンジョン内の魔物は生きてはいない、もしくはダンジョン自体がこの世界ではないなどとも言われていた。


 ここハプスクラインのダンジョンは初心者向けと言われていた。


 継承の儀を修めた証となる宝玉は伝説ではこのダンジョンの最下層にあると伝わる。その伝説によると最下層に繋がる深層は強力な魔力の障壁があり王家の秘宝である『破邪の首飾り』を持つパーティ以外は入れないとのことだった。そして深層には初心者が探索している上層とは比べ物にならないくらいの強力な魔物がいるという。


 継承の儀については過去の文献等に記されてはいるが宝玉を入手すること以外のことは不明な点が多かった。先に宝玉を入手した者が継承者と認められるのかそれすらも定かではない。ある説には先に入手した者が後継者と認められるとあり、またある説では宝玉自らが後継者を指し示すと言った具合である。


 そんなこともあり最下層までは共闘ということになったのである。『破邪の首飾り』については代表して長男であるトーマスが所持している。これは大公が直々に決めていた。


「おい!シングルトン!」


 呼びかけられたプレスは顔を声の方に向ける。派手な装飾の鎧と大剣を背負った勇者候補のプレストンである。彼と彼のパーティのいかつい男、盾持ちの騎士が前衛を務めていた。


「あの闘技場で戦い方はまずまずだったが、あんな軽い斬撃は実戦で通用しない。真の冒険者ってやつを見せてやる」


 明らかに不機嫌な口調で絡まれる。プレスは軽く頭を下げた。


「A級冒険者のあなた達がいてよかった。元C級冒険者では心もとないし、ダンジョン探索は騎士には専門外のことが多い。彼らは護衛が主な任務だからな」


「分かっているならいいんだ」


 多少機嫌を直したような勇者候補はそのまま歩いていく。


「よいのかプレス殿…?どう考えてもそなたの方が…」


『強い』と言いかけたサファイア。彼女は御前試合でのプレスの戦い方を別の場所で観ていた。事前の打ち合わせと寸分狂わぬ状況を再現するその力量に…恐らく自分が生涯をかけて到達できるところよりも遥か彼方にある力量に畏怖の念を覚えてしまった。そんな彼女の言葉をプレスは遮る。


「気にしない、気にしない」


 そう言ってプレスも歩を進めるのだった。


 このダンジョンは初心者向けなので深層の入り口までは大した魔物が出ることもなく特に高級なものが落ちているわけでもない。パーティはひたすらに深層の入り口を目指した。

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