第44話 挑む者達

「これで全て予定通りだね?トム?」


 そうトーマスの隣で呟いたのはC級冒険者のプレストン。いまは元C級冒険者のシングルトンと名乗っている。


「ええ。自分でも信じられません。そしてダンジョンに挑むのは初めてです。正直…、緊張します」


 そう答えるのは第一王子のトーマス。


「殿下!心配には及びません。我ら公国の騎士が必ずお守りします」


 そう言ったサファイアを先頭に騎士団から来てもらった二人も頭を下げる。


 トーマスが父である大公イサーク=ラーゼルハイドにダンジョン探索を願い出てから五日、準備を済ませた十人がダンジョンの入り口に立っていた。


「ハプスクラインのダンジョンは洞窟型。魔力によって立ち入ることができないとされている深層以外のマッピングは多くの冒険者の手によってほぼ完了している。しかし知っている通りダンジョンは時折変化する場合がある。そしてトラップは新たに発生することも多い。皆、気を引き締めて探索に当たれ!」


 そう声を挙げるのはA級冒険者で勇者候補のプレストン。彼らは四人組のパーティそのままにユスティの護衛として参加していた。


 そしてトーマスの挑戦に大公は次のような条件を付けたのである。


 トーマス、ユスティの双方の護衛はそれぞれ四人。そのうち少なくとも一人は御前試合の冒険者かそのパーティメンバーを入れること。そして他の選出は自由であるとのことだった。


 ユスティ側は勇者候補のプレストンのパーティに依頼を出した。勇者候補に加え、盾持ちのいかつい男、フードを目深に被っている僧侶の女性、魔法使いと思われる女である。


 トーマス側はプレスとサファイアに加えてトーマスの護衛となれる盾持ちと回復役の魔導士を騎士団から選出していた。盾を持参した騎士がカダッツ、大柄で気のよさそうな男である。魔導士の名前はミラ。可愛らしい女性であるが、騎士団の魔法部隊においては小隊長を務めるほどの実力者だと言う。二人ともサファイアの友人で命の危険が伴うかもしれない今回の参加を騎士の誉と快く引き受けてくれた。


 このメンバーであればトーマスを守ることが出来るだろう。そして誰も死なす気はないプレスである。


 そしてつい先ほど…。


 洞窟の前に立っているメンバーは王城の一室に集められた。彼等の前に立つのは大公イサーク=ラーゼルハイドその人である。第二夫人のシーラルも同席していた。


 プレスはもっとシーラルからユスティをダンジョンに潜らせることについて反対の意見がでると思っていたのだが拍子抜けするほど簡単に物事が進んだ。少しだけ違和感を覚えるプレスだが現時点ではできることはない。今はダンジョン攻略を優先するとプレスは決めていた。


 そうしてトーマス、ユスティと彼等を守る八人を前に大公が語り掛ける。


「…それでは継承の儀を始める…。この継承の儀は対象者が複数いる場合、その者達の互いの信頼こそが宝玉への足掛かりになると伝わっている。そなたらは互いに競い合う身かもしれん。しかしそうであっても兄弟であることを忘れてはならん。そのことを軽んずることが無きように。努々忘れぬことだ」


 それが大公からの言葉だった。


 そうしてダンジョンの入り口へと移動した全員が継承の儀のため一歩を踏み出す。


 背中に木箱を背負い長剣を差したプレスも歩み出した。その時…。背中の木箱が『カタッ』と鳴った。プレスは呟く。


「さて…。何が待っているのだろうか…?」


 余りにも小さいその呟きを耳にした者は一人もいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る